持続可能なカカオの生産には生活賃金の支払いが必要 新たなツールも誕生

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持続可能なカカオの生産・流通に取り組む国際NGO・労働組合のネットワーク「VOICEネットワーク」は昨年12月、カカオの持続可能性に関する重要な報告書「カカオ・バロメーター」を発行した。報告書によると、カカオのサプライチェーンでは環境・社会課題が蔓延しており、企業が農家への支払いを大幅に増やし、生活賃金を支払わなければ、問題の解決は難しいという。一方、同時期に、持続可能な貿易を推進するオランダの団体「IDH」が生活賃金の支払いを実現するための手引きとなるツールを無料公開した。

カカオを生産するコミュニティが抱える問題は幅広い。強制労働や児童労働、ジェンダー不平等、栄養失調、教育へのアクセスの不足、不十分な医療設備・公衆衛生、小規模農家・労働者・賃借人に対するさまざまな労働権の侵害などがある。さらに、森林伐採や気候変動などの環境課題への懸念も高まるばかりだ。

VOICEネットワークはすべての課題の根底に農家の貧困があると指摘する。カカオ農家の貧困問題へのこれまでの取り組みは、重要な課題である商品価格の圧倒的な低さという問題に取り組んできておらず失敗しているといえる。カカオのサプライチェーンには依然としてカカオ生産国から莫大な富を抜き取ってきた植民地時代のパワーバランスが存在しており、企業・政府の貧困問題に対する姿勢に影響を及ぼし続けている。

児童労働の撲滅に取り組む日本のNGO「ACE」、貧困や不正の根絶に取り組むオックスファム米国・ベルギー・ガーナ、WWFフランスなどが参画するVOICEネットワークのアントニー・ファウンテン氏は、ロイター通信の取材に「農家にこれまでより高い価格を支払うことなくして持続可能なカカオは実現できないという新たな調査結果が出た」と語っている。

同ネットワークによると、カカオ農家が生活賃金を得られるようにするには3つのアクション「政府の優れた政策」「企業の適切な購買」「農家の適正な農業の実践」が必要だという。しかしながら、過去20年間、カカオ関連のセクターは農家に重点を置いた対策は講じてきたものの、貧困などの社会システムに関するサステナビリティ課題を解決するための政策・購買の変革には十分に取り組んでこなかった。

オランダのIDH、生活賃金の支払いを実現するためのアクションガイドを公開

『カカオ・バロメーター』が公表されたすぐ後に、オランダのIDH(サステナブル・トレード・イニシアティブ)は生活賃金の格差解消に取り組む企業を支援するためのツール「生活賃金アクションガイド(Living Wage Action Guide)」を無料公開した。

生活賃金アクションガイド Image credit:IDH

アクションガイドは、企業が自社の立場・状況に応じた最適な対策を見つけ出すのに役に立つ。潜在的な課題や解決策を特定することも可能で、それぞれの対策の実用的なヒントや事例を示してくれる。それぞれの項目は、生活賃金に関する国際的枠組みやガイドライン、出版物に基づき定められている。

IDHのカーラ・ロメウ・ダルマウ氏は「アクションガイドは、生活賃金の支払いを実現するための実用的なヒント、事例などを提供するものだ。このガイドが、生活賃金の格差を縮小し、生活賃金経済を世界中に拡大していくために、企業が必要な情報を得た上で意思決定を行える手助けになることを願っている」と語る。

アクションガイドの使い方は簡単だ。まず自社の立場をバイヤー、サプライヤー、政府、支援団体の4つから選択する。次に、自社が雇用、設備、調達・取引、事業環境のどの分野に影響をもたらすかを選ぶ。そうすると、生活賃金の支払いを困難にしている要因・課題がいくつか提示される。さらに、その中から自社の状況に当てはまるものを選ぶと、どのように課題に介入すべきかを示す12個の対策を提示してくれる。それぞれの対策をクリックすると、対策を成功させるためのより詳細な情報が表示される。取り組みにおいて発生し得る課題、立場別のヒント、参考になる取り組み事例、関連するツール・情報源などを細かく教えてくれるのだ。IDHは引き続きガイドを更新・強化し、可能な限りデータや証拠を示していく考えだ。

生活賃金アクションガイドは、IDHが進めてきた世界の小規模農家の生活賃金を実現するための最新の取り組みだ。IDHの取り組みは近年、広がりをみせている。2021年には、ロレアルやユニリーバ、フェアフォンなど欧州の10社・団体と共にサプライチェーン全体で労働者の生活賃金を保障するために行動を起こすイニシアティブを立ち上げ、他社にも参画を呼びかけた。2022年には、Bコープの認証機関BラボがIDHの掲げる生活賃金実現のためのロードマップに整合した生活賃金支払いのための新たなガイダンスを掲げている。

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