大人の事情

 手元の辞書の編集者は「社会」には「表と裏」があるものだ-という前提に立っていたらしい。「おとな=大人」の項に〈社会の裏表も少しずつ分かりかけて来た意味で言う〉と、どこか微妙な注釈が付いている▲そこから派生したとみられる「大人の事情」という言葉がある。辞書っぽく定義付けるとすれば〈何かの決定の背景に、公にしにくい利害関係などがかかわっている時、『子どもには説明しにくい』というニュアンスを込めて使われる言葉〉となるだろうか▲前置きが長くなってしまったが、ちょうど1年前の今ごろ、春の選抜高校野球の出場校選考を巡って“大人の事情”がささやかれたことがある▲秋の地区大会で、例年なら間違いなく「当確」のはずの好成績を収めていた東海地区の学校がなぜか選出から漏れ、議論を呼んだ。そんな記憶が残っていたから、秋の九州大会で準優勝の長崎日大高と、ベスト4に残った海星高の県勢2校が順当に選出された今年の選考結果にはほっとした▲甲子園は高校球児の夢の場所だ。本来「大人の事情」がこれほど似合わない空間もないだろう。自然な選考がごく当たり前に行われたことを改めて喜んでおきたい▲県勢の2校出場は初めて。互いの競争心が好結果に結びつくといい。大会を楽しみに待ちたい。(智)


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