【寄稿】沖縄県「人権条例」を考える 対象に「沖縄の人々」議論必要 安里長従氏

 県が昨年12月5日に発表した「差別のない人権尊重社会づくり条例(仮称)」の骨子案に対するパブリックコメント(意見募集)が1月6日まで行われた。
 県民からの意見の詳細は未だ明らかになっていないが、骨子案では「本邦外出身者」への差別的言動が確認された場合は、概要や氏名を公表する一方で、沖縄の人々に対する差別的言動は対象とされず、インターネット上での「県民」に対する誹謗中傷の解消に向けた取り組みにとどめたことで反発も含め議論が起きている。
 人種差別撤廃条約は「人種、皮膚の色、世系(せいけい)(祖先から代々受け継いだ系統)又は民族的若しくは種族的出身」を対象としている。このように人種差別撤廃条約がその対象を包括的に記載するのに対し、国のヘイトスピーチ解消法も県骨子案も、本邦外出身者に限定しており、また「県民」という文言は、「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身」のどれにも該当しない。
 川崎市は本邦外出身者に対する差別的言動に対して、罰金を科す、全国で初めて刑事罰に踏み込んだ条例を制定した。そこで報道では識者談話とともに実効性のある条例のためには「罰則」が必須であると訴えてきた。一方で、川崎市条例を超え、「沖縄の人々を含め」かつ「罰則」を課すのは「法の限界・ハードルが高い」、「琉球、沖縄の人々の定義が難しい」など消極的な意見が紹介されてきた。しかし、東京弁護士会が全国の自治体に提言しているモデル条例案が「包括」かつ「罰則」であることからも分かるように、国の法律が規制最低基準を定めたものならば(これは明らかであろう)、地方自治体がそれに「上乗せ(罰則)」「横出し(本邦外出身者以外も含める)」する条例制定は可能というのが憲法解釈の多数説だ。
 したがって、最大の課題は「沖縄の人々の定義が難しい」ということになるが、そもそも人種差別撤廃条約も海外の規制法も、特定の民族を定義していない。つまりこの問題は、その対象を包括的にしないがゆえの問題なのである。なのに罰則に拘(こだわ)り、結果、沖縄の人々も含めることが劣後されるという事態を招いている。
 私たちは、東京弁護士会が提言する(1)包括+罰則の条例を目指すべきか、これが「ハードルが高い」というのなら、(2)本邦外出身者+罰則か、(3)たとえ罰則はなくとも沖縄の人々も含めた包括条例か―の現実的選択を迫られるということになる。報道が議題を設定し、人々が報道された内容を重要だと判断する効果を報道の「議題設定権力」というが、報道は本来こうした論点を明確に示し、県民の議論を深めていくべきではなかっただろうか。私は(1)か(3)だと考えるが、この場合、あくまでも沖縄の人々の定義が必要だというのなら、条例制定を急ぐよりも、その定義をどう書き込むのか専門家と県民との間できちんと議論を深め、ボトムアップの条例制定を目指すべきではないか。
 沖縄の人々に対する構造的差別が問題視されている状況で、「罰則の必要性」を優先する結果、条例の対象に沖縄の人々も含めることが劣後されるという事態は避けなければならない。
 (司法書士、沖縄国際大学非常勤講師)
 あさと・ながつぐ 1972年生まれ。石垣市出身、司法書士。沖縄国際大学非常勤講師。「辺野古」県民投票の会元副代表。石垣市住民投票裁判原告弁護団事務局。沖縄生活保護基準引下処分取消請求裁判原告弁護団事務局。

© 株式会社琉球新報社