「節分に豆まき…知らなかった」富士山麓に“鬼がいない村” 爆破した⁉から「退治いらない」

2月3日は節分です。節分といえば豆まきが定番ですが、静岡県富士宮市には、ある理由で「豆まきをしない」という地域があるんです。一風変わった風習の由来は、壮絶な結末を迎える地域の伝説にありました。

「鬼は外、福は内」

1月28日、節分を前に、静岡県富士宮市の「まかいの牧場」では、来場者向けのイベントとして、豆まきが行われました。全国的に行われているこの豆まきを、しないという地域があります。

<天野大輔記者>

「富士宮市の芝川に架かるこちらの橋、名前が『鬼橋』となっていまして、この地域に残る鬼の伝説に由来しているということなんです」

豆をまかないのは、富士宮市内野にある「足形」という地域、鬼の足形があるとされ、地名の由来となっています。

<足形地区に暮らす遠藤誠さん(84)>

「鬼の右足の小指、薬指にあたるようなところが2つ残っている」

鬼橋の下にある岩のこの部分が鬼の足形だといわれています。鬼の伝説が残るこの地域で、なぜ、豆まきが行われないのでしょうか。

<足形地区に暮らす遠藤誠さん(84)>

「(祖父に)鬼を退治したから、もう豆は撒かなくていいと言われた。それで教えられたのがここ」

実はこの鬼橋、地元の猟師が鬼を鉄砲で撃ち、退治したと伝わる場所だったのです。以来、この地域では、豆まきをする必要がなくなったのだといいます。

<足形地区に暮らす遠藤誠さん(84)>

Q.節分の日はどうしている?

「何もしない」

<足形地区に暮らす伊藤照男さん(74)>

「意識もない。豆まきをすること自体を知らなかった」

この伝統は、子どもたちにもしっかりと引き継がれています。

<足形地区に暮らす小学5年生>

「鬼なんて来ないと思っているから(豆まきは)やらない」

伝説の内容はこうです。猟師の治兵衛さんが村の入口の橋にさしかかると、大きな鬼が立っていました。襲い掛かってきた鬼に向けて、治兵衛さんが鉄砲を撃つと、弾は腹に命中し、鬼は大きな音を立てて倒れました。鬼は撃たれても死なず、鬼橋から数km離れた人穴地区に現れます。

<郷土史研究家 渡井正二さん>

「人穴地区に清岩寺というお寺があった。今でもお寺の名残として、墓標を集めた石のかたまりなどが残されている」

富士宮の歴史を研究している渡井さんによると、清岩寺の和尚さんは鬼に「傷薬」と称した火薬と火打石を渡し、火をつけて温めれば、傷が治ると教えます。住処に戻った鬼が傷口に火薬を詰め、火をつけると爆発し、鬼はバラバラになって吹っ飛んでしまったそうです。

<郷土史研究家 渡井正二さん>

「少しでも語り部が増えてくれたらありがたい。やはり、お年寄りが孫を抱いて、ぽつぽつと語っていく、そういう雰囲気を残したい」

渡井さんは、こうした地域の伝説や昔話を調べ、未来に残す活動をしています。富士宮市内の女性グループは、渡井さんが調べた伝説をもとに紙芝居を作り、郷土の歴史を市民に伝えていく活動をしています。

「鬼のいない村として、平和に暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」

節分のイベントを行っていた「まかいの牧場」も足形地区にあります。豆まきでは、鬼が登場しますが、同時に、地域の伝承を紙芝居にして参加者に伝えています。

<まかいの牧場 観光部 鈴木亜琉斗さん>

「地域の昔ながらの伝承・文化を、守っていきつつ、多くの人に知っていただきたいと思い、毎年この催しを開催している」

「鬼のいない村」の伝説、そして、伝統は、多くの人たちの想いによって、いまも地域に息づいています。

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