岩崎亜久竜「鹿児島キャンプ」に密着 朝トレ、定点練、食トレに英会話… ちょっ、ストイック過ぎない!?

食トレに励む岩﨑のごはんはてんこ盛り(撮影/村上航)

男子ツアー「U-25世代」期待の選手といえば、真っ先に上がるのが昨シーズンブレークした岩崎亜久竜だろう。優勝こそなかったものの賞金ランク3位に入る活躍。今季の欧州ツアー出場権もゲットした。世界と日本を行ったり来たりの忙しいシーズンを前に強化合宿を行っているという情報をキャッチ。現場で密着取材してきた。(聞き手/服部謙二郎)

鹿児島で缶詰になって強化合宿

「鹿児島で合宿しているんで、アグリの取材に来てください」

1月の半ば、岩崎のキャディ兼マネジャーの湯本開史さんからLINEが入った。彼らには昨年からよく取材させてもらっていたこともあり、では最新の“アグリ情報”をアップデートさせてもらおうと、「ぜひ!」と二つ返事で鹿児島へ。

欧州ツアー「ラアス・アル=ハイマ選手権」が今年最初の試合となる(撮影/村上航)

岩崎亜久竜の名前をまだよく知らない方もいると思うので、まずは彼のプロフィールを紹介します(長いので、よく知っている方は飛ばしちゃってください)。

静岡県の清水町出身。8歳からゴルフを始め、1つ年上のお姉さんと一緒に静岡県の東名カントリークラブ(国内女子ツアー・スタンレーレディス ホンダの舞台)のジュニアアカデミーに入部。当地の所属プロやアマチュアの父・修治さんからゴルフを教わり、腕を磨いてきました。

通信制の高校時代は勉強、練習、バイト(ミスタードーナツだそうです)に明け暮れる日々。当時の成績は「全国大会に出られるくらい」(岩崎)で、ほどなくして日大ゴルフ部から声がかかりました。しかし高校3年時に歩けなくなるほどの腰痛に苦しんだこともあり、大学1年時は不調でほぼ試合に出られませんでした。ただ、その1年間で基礎練習ができたことで、だいぶスキルが上がったとか。大学4年時はキャプテンとして学生競技でも活躍し、卒業のタイミングでアジアンツアーQTを受けプロの世界に飛び込みました。

同級生からの一本の電話で人生が変わった

ここ2年で急成長を遂げた岩崎。少し体も大きくなった!?(撮影/村上航)

アジアの下部ツアー出場権を獲得してフィリピンに住み始めましたが、コロナ禍でやむなく帰国することに。「試合に出られないし、日本で練習する場所もないし、途方に暮れて実家でボーっとしていました(笑)」

そんなとき、同級生で先にプロになっていた湯本さん(前出)から一本の電話が。

「アグリ、いま何してんの? うちの引っ越し手伝ってくれない」

湯本さんにとっては何気ない電話でしたが、これが岩崎の人生の大きなターニングポイントになったのです。窮状を聞いた湯本さんが救いの手をさしのべ、練習場所を提供するだけでなく、師事していた黒宮幹仁コーチも紹介。これが運命的な出会いとなり、「人生が変わりました」(岩崎)と黒宮コーチのもとスイングを大幅に改造。今の“強い岩崎亜久竜”の下地ができました。

朝の6時半から一日がスタート

宿泊先の部屋から撮影。ゴルフ場が目の前に広がる(撮影/村上航)

さて、前置きが長くなりましたが、密着した彼らの様子を伝えていきましょう。

まず驚いたのが、彼らの合宿場所です。

チーム・アグリは、鹿児島空港から40分近く車を走らせた場所にある「さつまゴルフリゾート」というゴルフ場に泊まり、2人で缶詰になって練習していました。空港から鹿児島市内とは逆方向。私も久しぶりの鹿児島出張でしたが、「市内に泊まりたい…」と後ろ髪を引かれる思いでゴルフ場併設のホテルへ向かいました。

飛行機が着いたのは夜で、ゴルフ場が近づくにつれ明かりがどんどん減り、コンビニもなくなり、ちょっと心細くなったころに到着。ゴルフ合宿には最高のシチュエーションですが、こりゃ娯楽がないな…。

プロゴルファーの合宿地といえば、宮崎、沖縄などが定番。昼は練習して夜は“ニシタチ”や”マツヤマ”などの繁華街に繰り出して飲み歩く姿を多く見てきただけに、「時代が変わったなぁ」としみじみ。その日はおとなしく床に就きました。

縄跳びの重さは3kg。一気に心拍数が上がる(撮影/村上航)

「おはようございます」

朝の6時半、岩崎と湯本さんが眠い目をこすりながらホテル1階のジムに現れました。「朝はアップ中心のトレーニングで、ストレッチや体幹トレーニングなどじんわり汗をかくメニューをこなします」と岩崎。

途中で重さが3kgある縄跳びを跳んでいて、これ、私も跳んでみましたがかなりハード。プロは2分間跳んでいましたが、私は1分がやっと。それでも心拍数は爆上がりで、しばらく手が上がらなくなるほどきつかったです。アップ中心と言っていたのに…。

一日6食

栄養のバランスも考え、たんぱく質もしっかりとる(撮影/村上航)

ひと汗かいてから朝ごはん。

このオフは“食トレ”に励んでいて、朝、昼、晩をしっかりとるほか、間食でおにぎり、お餅、プロテインなど炭水化物を中心にエネルギー補給していました。なんだかんだで一日に6回はご飯を食べるとか。

「試合が続くと食べられなくなって体重が落ちてしまうんです。このオフは、飛距離アップを意識してエンジンの排気量をちょっとずつ増やしています」と、大盛りのご飯をむしゃむしゃとたいらげていました。

「シーズン中だと飛距離はキャリーで296ydぐらい、今季は300yd以上は行きたい。でも、闇雲にヘッドスピードを上げるとスイングが崩れるので、カラダ作りとスイング作りを同時にやっています」

ラウンドはまさに実戦形式

湯本さん(右)は球も打たず、完全にキャディ業に徹する(撮影/村上航)

そして8時過ぎにラウンドスタート。

試合を想定した練習で、ミスをしても打ち直しNG。試合さながらに湯本さんと距離をすり合わせ、危険ゾーンもチェック。グリーン上も2人でラインを読み、ともにエイムポイント(科学的なグリーン読みの計算方法)を受講しているので、「ここは2%」と傾斜の度合いを確認していました。

「『カップ何個分曲がる』とかのお互いの感覚論でなく、数値で度合いを共通認識しています。このすり合わせをオフからやっておくと、試合で迷いなくプレーできるんです」(湯本さん)

この日、念入りに話していたのがティショットの狙いと球筋。岩崎はこのオフの課題のひとつに「ティショットの精度」を掲げています。

「昨年まで真っすぐドーンという球が多かったので、今年はホールによって球を曲げたりどちらか(のサイド)を消す打ち方もしていきたいんです。ZOZOチャンピオンシップに出て思いましたが、PGAツアーの選手はティショットから球をコントロールしていました。ドライバーを持って毎回前に行くのではなく、あえて吹け球も打ってフェアウェイを狙っていた。技術レベルが半端ないなと思いました」

その成果が垣間見えたのが、左ドッグレッグ18番ホールのティショット。岩崎は左のハザード方向に出したフェードボールを放ち、見事フェアウェイの右サイドをとらえました。

「フェードならミスしても左に行かないので、左を消せる。今までは真っすぐ一辺倒で、緊張した場面で左のミスも出ていました。この球が打てるようになったのは自信が持てます。新しいドライバーに替えてから、球を曲げるのも楽になりました」と新しいクラブ(ステルス2 プラス)にも満足げな様子でした。

課題に向き合う「定点練習」

昼食を挟んで(もちろんお昼もモリモリ食べます)、再びコースへ。

午後は彼らが「定点」と呼ぶ、その名の通り同じ場所から何球も打つ練習。傾斜地や、ライの悪い場所などから球を打つのでまさに実戦向き(その練習を許してくれるコースも素晴らしい!)。

この日最初に選んだ「定点」は、フェアウェイバンカー。しかも左腕1本の片手打ち(8番アイアン)で練習しているじゃありませんか。めちゃめちゃ難しいことやっています。

「自分の悪い癖は、(インパクト時に)腕の長さが変わるのと、右サイドに体が倒れてしまうこと。この練習は打点がシビアなので、腕が縮こまっても打てないし、体が倒れても打てません。体の前に左腕がずっとある意識で、ボールをとらえるようにしています」

続いてグリーンに近づき、グリーンを狙うコントロールショットの練習。

「130yd以内も課題。昨年はその距離のショットでスピンが入ったり入らなかったりしてグリーンからこぼれるケースが多く、スコアを落としていました」

ライ別、傾斜別からいろんなピン位置に対して狙う練習。かなり実戦的(撮影/村上航)

130yd以内も様々な距離だけでなく、ピンの位置をいくつか設定してピン別でも打ち分けます。

そしてグリーンに近づくと、湯本さんがグリーン周りにボールをランダムに置いていき、ショートサイド、薄い芝、傾斜、バンカー越えなどいろんなシチュエーションを想定してアプローチ練習。うーん、これは練習になるなぁ、横で一緒に打ちたい…。

夜はオンラインで英会話レッスン

合宿に英語の教材も持ち込んでいる(撮影/村上航)

その後もコースでたっぷり球を打ち、日が沈むころにホテルへ戻って再びトレーニング…。ちょっとアグリ君、メニュー盛り込みすぎじゃないですかね。

ようやく夜7時に夕食となり、その後風呂に入ってストレッチ。さあ、これで長い一日も終わりかなと思ったら、なんと「このあと英会話の授業が入っています」と言うじゃありませんか。え? これから?

「セブ島にいるフィリピン人の先生とオンラインで英会話しているんです。先生たちのスケジュールを見て、その時間に空いている人とマッチングして。正直、会話内容が難しくて、グーグル先生に聞いたりしていますが、しょっちゅう先生に“ワンモアプリーズ”って言っていますよ(笑)」となんだか楽しそうです。

目指すは欧州トップ10&世界ランク50位以内

取材している方がお腹一杯なぐらい、てんこ盛りなスケジュールでしたが、すごく充実した内容でした。

彼らがベッドに入る前に、今年の目標を聞きました。

「最終的な目標はアメリカのPGAツアーに出ることなので、今季は欧州ツアーのトップ10と世界ランキングも50位以内が目標。そのためにも欧州ツアーの序盤戦で優勝して、ロレックスシリーズ(出場圏)に入り、ランク上位を目指します。でもまだ日本でも優勝していないので、出られる限りは日本の試合にも出て優勝したいです」と、一日の疲れも見せずに目をキラキラと輝かせて語ってくれました。

ちなみに岩崎は、今週の欧州ツアー「ラアス・アル=ハイマ選手権 by フェニックスキャピタル」に出場。UAEで今季の開幕を迎えます。

グッナイ! いい夢見てね(撮影/村上航)

寝る前に湯本さんが焼いたお餅を食べてベッドへ。んー、見ているだけで胃がもたれそう…。

翌日も朝の6時半からトレーニングというから、はい、アグリ君おやすみなさい。

撮影協力/さつまゴルフリゾート

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