ブイに当たっただけなのに…ゴムボートが破れて危機一髪 冬の日本海の沖合、付着していた美味で尖ったやつ【敦賀海保日誌】

破損して空気が抜けたゴムボート(令和4年12月・福井県高浜町)

12月上旬、福井県高浜町の沖合で、釣りをしていた男性1人が乗るゴムボートの空気が抜けて遭難する事故が起きました。

男性はこの日イカ釣りをするために、午前7時ころ高浜町の砂浜からゴムボートを降ろして出航しました。 沖合のポイントに到着していざ釣りを始めたものの、なかなか釣果が上がらない状況で、男性はポイントを転々としていたそうです。そうして1時間ほど経った頃、男性が乗ったゴムボートは、「定置網」という魚を捕るために海中に固定して仕掛けられている網の方へと風に押されて徐々に接近していました。 「定置網」にはブイと呼ばれる大きな浮きが取り付けられていて、そこに網が入っているという目印になっています。 男性がそのブイに気付いたときには、すでにボートのすぐ側にまで迫っていて、定置網から離れるためにエンジンを使って船を走らせたのですが、ゴムボートの横の面がブイに当たってしまいました。 そのときです!男性の耳に「シューーー・・・」という嫌な音が聞こえてきました。そう、ボートのゴムが裂けて中の空気が漏れ出したのです。 なぜブイに当たった程度でゴムが裂けたのか。実はこれ「フジツボ」が原因でした。

海辺の岩場などでよく見掛けるフジツボ。実は殻の先端は非常に鋭くとがっていて、素足で踏んでしまったならば深い切り傷になってしまうことがあるほど。 そんなフジツボ、実は貝類ではなくてエビやカニと同じ甲殻類に分類されるそうで、青森県などでは珍味として親しまれているそう。味はシャコに似ているらしく、独特の潮の香りがあり、塩味はまろやかで甘味が濃厚なのだとか・・・。

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すみません。余談はこのぐらいにして話を元に戻しましょう。

定置網のブイには、長い期間海に浮かんでいることで「フジツボ」がたくさん付いていたようで、フジツボの鋭利な殻がゴムボートを破損させる原因となっていたのでした。 ゴムボートの空気はどんどんと抜けていき、だんだんと浮力が失われていく状態でしたが、男性はなんとか沈没してしまう前に近くの陸地にたどり着くことができ、ひとまずは難を逃れることができました。 ですが、辺りは断崖絶壁。ボートはすっかりしおれてしまって、男性はそこから帰ることができなくなってしまい、海上保安庁118番に通報して救助を要請。駆け付けた巡視艇あおかぜによって無事救助されたのでした。

ゴムボートは、空気で膨らませている構造上、樹脂製のボートなどに比べて浮力が強く沈みづらいという特性があります。それに空気を抜くと小さくなるので持ち運びにもとても便利なんです。 ですがその反面、船体がゴム製なので外部からの衝撃に弱く、岩場に接触して破れたり経年の劣化で接着面が剥がれたりして空気が抜けてしまうと、たちまち船としての機能を失ってしまいます。 また、船体が軽いので風や潮の流れの影響を受けやすく、岸に戻れなくなるという事故も多いんです。

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つまりゴムボートのメリットの裏には、使用するコンデションや日常のメンテナンスに特に気を使わなければ、命にかかわる事故に繋がる可能性があるという“デメリット”を併せ持っているということを理解しておかなければなりません。 具体的には、風や波が少しでも強いと感じる日には出航を取り止めることや、岩場や漁具などの障害物に近付かない、日頃からゴムの劣化具合の点検や手入れを行うことが、安全なゴムボートの航海に繋がります。

私の圧力鍋も、使った後の手入れを怠って料理の匂いが鍋にこびりついてしまったり、調理途中で鍋の蓋を開けられなかったりと、デメリットを感じることは多々あります。

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どうしてもメリットの方ばかりに目を奪われがちになりますが、自分が使うもののデメリットも含めて、しっかりと特性を理解して使うことができれば、きっと料理も釣りも“苦い”思いはしないでしょう。(敦賀海上保安部・うみまる)

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