クラファンで今年も資金調達 男子プロ&ジュニア大会発起人・中西直人の本気

中西直人は今年もジュニアと男子プロの大会をホストする(撮影/中野義昌)

プレーの合間にいつも笑顔を絶やさない男も、その時ばかりは込み上げてくるモノを抑えきれなかった。苦労が報われた1年前、中西直人は思わず言葉を失ったという。「もうなんか、うれしすぎたのと、疲れたのと、ホッとしたので…。当時の気持ちは忘れられない。“盛らずに”言いますけど、本当に初めて涙が出てきました」

男子プロと小学生のゴルファーによる一日競技「THE TOURNAMENT for the FUTURE~子供たちへの贈り物~」を実施したのは2022年3月。岐阜県の瑞陵ゴルフ倶楽部を舞台に、ジュニアと同じ組でプレーするプロが賞金(総額500万円)を争う真剣勝負には、レギュラーツアーを主戦場にする選手10人が集まった。

中西直人が2022年に初めて開催した「THE TOURNAMENT for the FUTURE~子供たちへの贈り物~」(提供:大会事務局)

男子ツアーを盛り上げたい一心で発案したイベントは、まさにイチからのスタートだった。賞金や運営、インターネット中継に関わる資金をクラウドファンディングで捻出。目標の1000万円を超える1078万円(支援者数296人)が集まった一方で、サトウ食品、昭和窯業をはじめとする協賛社の援助も欠かせなかった。

昨今の国内男子ゴルフは年間の試合数確保に必死な現状がある。それも中西は肌で感じた。出場してくれた若手選手にも「試合を開催することがどれだけ大変か伝えたかった」。ましてツアー競技の実施となれば、今回の苦労にとどまらない。「『少しでも協力していただけませんか』という、あいさつ回りが大変でした。それまで顔も合わせたことのない方にご支援をお願いして、どれだけの方に賛同していただけるかと毎日不安だった」

比嘉一貴(左から3番目)も第1回大会に出場した(提供:大会事務局)

ある意味では、プロゴルファーとして覚えたのは“無力感”だったかもしれない。それでも、幼い頃の実体験が中西を突き動かす。小学生の時、初めて生観戦した男子ツアーでの出来事が忘れられない。兵庫県のゴルフ場。少々退屈してロープサイドの芝生で寝転んでいた足元に、あるプロがそっとボールを置いてくれた。記されていたのは「丸山茂樹」の文字。胸を打たれ、次のホールから背中を追った。

別のある試合。長いサインの列で、背の低い子どもの前に割り込んでくる大人を制してくれたプロがいた。「次はキミの番のはずだよ。こっちおいで」。あの時、田中秀道からもらったボールとグローブも、もちろん宝物。20数年後、自ら企画した試合の会場が田中の拠点のひとつである瑞陵ゴルフ倶楽部になったことにも縁を感じずにいられない。

彼らは、今ある中西の旺盛なファンサービスの“原点”。「プロゴルファーは良いプレーを見せることがもちろん大事ですが、(優れた)人間性も必要だと思うんです。僕なんかが偉そうに言えないですけど、人としても魅了できるような人であってほしい」

中西直人のファンサービスはどこまで(撮影/松本朝子)

来る3月11日(土)、同じ瑞陵ゴルフ倶楽部で第2回大会を開催する。新たに稲森佑貴や清水大成ら若手実力者を加えた参加選手は4日時点で12人が決定、賞金総額も100万円アップを目指し、再びクラウドファンディングのプロジェクト(https://readyfor.jp/projects/for_the_FUTURE)を立ち上げた。

「本当は、参加した子どもたちも『あの人、誰なんだろう』と思っている子もいるはずなんです。僕だって(当時)秀道さんのことをすごい選手だとは知らなかった。でも、『誰か分からへんけど、ボールをもらったのがうれしい』という思い出が、ひとつでもできたらいい。僕たちも(交流した)子どもたちがいつの日か、『僕はあの人と一緒にプレーしたんだ』『このボールはあの人からもらったんだ』と誇りに思ってもらえる選手になるというのも目標になる」。昨年の第1回大会で優勝した比嘉一貴は男子ツアーのシーズンで賞金王になった。今年4月、「マスターズ」に初挑戦する。

今年米下部ツアーを戦う大西魁斗も昨年子どもたちと一緒にプレー(提供:大会事務局)

今、中西の自宅の部屋に飾られている1枚の色紙。昨年大会に出場した子どもたちに書いてもらったメッセージの数々が記憶をよみがえらせてくれる。「子どもたちの笑顔、『頑張ってください』という言葉が本当にうれしかった」。彼らへの“贈り物”は、出場したプロゴルファー自身に返ってくるという実感もある。

夢は大きい。「10年後…今の小学生が出ていたこの試合が、ツアーの大会になるようにしたい思いがあります」。挑戦はまだ、始まったばかりだ。(編集部・桂川洋一)

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