「長」の字が好まれない

 ジョークをお一つ。ある製薬会社の副工場長は工場長になりたくてたまらない。肩書の「副」の字が気に食わず、見るのも嫌っている。新薬の説明書の原稿をチェックする時もそうだった▲「副」の字があれば迷わず削る。その結果、刷り上がった説明書の一文は〈本薬はいかなる作用もありません〉。ジョーク集「笑う中国人」(文春新書)にある▲副工場長さんとは違って、今の若い人は「副」よりも、課長、部長、社長にある「長」の字を好まないらしい。明治安田生命保険が、この春に社会人になる学生や今の社会人に「働くうえで望むこと」を聞くと「出世したい」という答えは15%ほどだった▲仕事と生活の調和を意味する「ワークライフバランス」や「お金を稼ぐこと」は半数を超える。重んじるのは組織ではなく、個人の時間のうまい使い方と、うまい稼ぎ方。そう考える人が増えたことの表れだろうか▲別の調査では「小学生が将来、就きたい職業」に、動画を公開して広告費を稼ぐ「ユーチューバー」が1位になる時代でもある。終身雇用も「長」の字も昔ほどに若い人を引きつけない▲昔のサラリーマン川柳にある。〈「課長いる?」返ったこたえは「いりません!」〉。居(い)ません、ではなくて、要りません…。どうかジョークでありますように。(徹)

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