FX予想「できること」「できないこと」の見極め、米ドル急騰の「雇用統計ショック」は想定内だったのか?

2022年10月にかけて展開した「止まらない円安」から、11月以降は「止まらない円高」に一変しました。ところが、2月3日(金)の米雇用統計発表をきっかけに、その流れは大きく米ドル高・円安へ戻す動きとなりました。

この「雇用統計大相場」にどう対処すべきだったのか−−今回はFXトレードにおいて不可欠である相場の予想について、「できること」「できないこと」をどう見極めるべきか、説明したいと思います。


久しぶりの「雇用統計大相場」

原則、毎月第一金曜日は米国の雇用統計という、経済指標が発表されます。数多ある米経済指標の中でも、この雇用統計の発表直後は、とくに為替相場が大きく動くことで知られてきました。このため、大きな値動きに期待したトレーダーの関心が高いことから、「雇用統計祭り」と称して、FX会社でも特別な企画を用意するケースも珍しくありませんでした。

ところが、2022年は、米国中心に歴史的なインフレの嵐が吹き荒れる年となったことから、為替相場を大きく動かす「主役」の座は、CPI(消費者物価指数)などのインフレ指標に移った形となっていたのです。

しかし、2月3日(金)の雇用統計発表は違いました。雇用統計発表を受けて為替相場は大きく動き、しかもそれまで続いてきた米ドル安から米ドル高へ、流れが急変するところとなったのです。

日本時間の2月3日(金)22時30分、雇用統計が発表される前まで、米ドル/円は128円割れを試す動きが続いていました。ところが結果が発表され、総じて予想より強い数字だったことから、一転して米ドル急騰となり、短時間で130円の大台に達するところとなったのです(図表1参照)。

さらに、その後発表されたISM(米供給管理協会)非製造業景気指数という経済指標も予想より強い結果となると、一段と米ドルは上昇し、131円台を回復するところとなりました。結局、雇用統計発表を前後して、約3円の米ドル大幅高が起こったのです。このところ、インフレ指標にお株を奪われていた形となっていたわけでしたが、久しぶりの「雇用統計大相場」となり、しかもそれはこの3ヵ月余り続いた米ドル安から、米ドル高へ急反転をもたらしました。

「雇用統計が予想を大きく上回る強い数字が出ると、為替相場が大きく動くのも当然だ。ただ、これほどの予想外の結果を予想することなんて、しょせん無理だ」とあなたは思いましたか。

「予想外の結果を予想することは無理」というのはその通りでしょう。ただ、そもそも為替相場が米ドル安、または米ドル高のどちらに動くポテンシャルが大きいかというのは、予め確認することができます。そんな手掛かりがあれば、今回米ドル高に大きく動いたことは、決して予想できないことではなかったと思います。

「予想できること」とは?

図表2は、前回も紹介した米ドル/円の90日MA(移動平均線)かい離率です。米ドル/円が過去90営業日の平均値から、どれだけかい離したかを示したグラフなのですが、これを見ると、2000年以降のかい離率は概ねプラスマイナス10%前後の範囲を循環してきたことが分かるでしょう。

その上で、1月に一時127円まで米ドル/円が下落した局面では、同かい離率はマイナス10%近くまで拡大していたわけですから、これまでの経験からすると、米ドルはかなり「下がり過ぎ」懸念が強くなっており、別な言い方をすると、米ドル安・円高の短期的な「行き過ぎ」懸念が強くなっていた可能性があったわけです。

米ドル安・円高の「行き過ぎ」懸念ということですから、何かの「きっかけ」があっても米ドル安・円高への反応は限られ、逆に米ドル高・円安方向には、「行き過ぎ」の反動により大きく動くポテンシャルがあった、ということになるでしょう。

さすがに雇用統計の予想外の結果、「サプライズ」を予想するのは至難の業ですが、こういったことを理解していると、少なくとも大きく動くなら米ドル高・円安方向ということで、今回の雇用統計の結果を受けた米ドル急騰も、少しは落ち着いて受け止められたのではないでしょうか。

ちなみに、今回のように米ドル/円の90日MAかい離率がマイナス10%前後まで拡大したのは、2000年以降では主に4回ありました。その4回を米ドル/円のチャートで確認してみたのが図表3です。これらの多く、例えば2002年7月、2008年3月、同12月などは、米ドルが当面半年から一年の循環的な安値を付けていたタイミングでした。要するに、米ドル/円の90日MAかい離率が、今回のようにマイナス10%前後まで拡大したところは、当面における米ドルを買うタイミングであり、少なくとも売るタイミングではなかったと言えるでしょう。

折角ですから、今回とは逆のかい離率がプラス10%前後に拡大したケースについても見てみましょう。これも、2000年以降では主に4回あったのですが、その4回を米ドル/円のチャートで確認したのが図表4になります。例えば2014年12月や2016年12月などは、当面における米ドル高値を記録しており、その意味では米ドルを売るタイミングだったと言ってよいでしょう。

今回は、2月3日(金)の米雇用統計発表後に米ドル高・円安へ大きく動いたケースを取り上げてみました。雇用統計の結果を予想するのは簡単ではないでしょう。ただ、為替相場の「行き過ぎ」を確認することで、どちらに動くポテンシャルが高いかを確認するのは、ある程度はできそうです。「できること」「できないこと」を認識することは、FXトレードにおいて「間違い」を減らすための第一歩と言えるのではないでしょうか。

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