「移動手段から、エンターテインメントに」2日間で計13便!日本一周だってできます! “夢の飛行機乗り放題”をやってみた

「神企画、再び」

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ある記事のこんな見出しに、目を奪われた。読み進めると「乗り放題」の文字も。静岡に本社を置き、北は北海道から南は鹿児島まで、地方都市の間を結ぶ航空会社FDAフジドリームエアラインズが斬新すぎるツアーを発表したという内容だ。しかも、今回で第9弾。「飛行機の乗り放題」とは、いったいどういうことなのか。幼いころから空の旅をこよなく愛する記者自ら体験してみた。

FDAが展開する「夢の乗り放題プラン」は、1泊2日と2泊3日の2種類。代金に含まれるのは、航空機代と宿泊代。1泊2日なら37,800円~(第9弾は2月28日搭乗分まで、全国旅行支援対象外)。乗り放題という割には、良心的な値段設定か。大まかなルールとして決まっているのは、出発地と最終到着地が同じ空港であることぐらい。その間、どのようなルートをたどってもかまわないという。

まさに、夢の“飛行機乗り放題”をやってみた

運賃だけで約18万円→宿泊代込みで4万円

旅行代理店のホームページには、「観光名所めぐり」や「グルメを満喫」といったモデルコースが紹介されているが、ここは、1から自分でルートを考えたいところ。FDAが国内で運航している飛行機は1日約90便。これを、まるでパズルのように、組み合わせていけば、1日で最大8回搭乗できる、すなわち、朝から晩まで飛行機に乗り続けられるという計算が成り立つ。これが「夢の乗り放題」と言われるゆえんだ。

では、記者は、どうしたか。2日間の休みを使い、「寒い夜に、屋台でとんこつラーメンを食べたい」と心に決め、1泊2日のコース、宿泊地を福岡に定めると、時刻表とひたすらにらめっこ。

「やっぱり、夢の日本一周?」「雪景を観たい」「元も取りたい」などと思いを巡らせながら、導き出したのが、静岡→出雲→名古屋小牧→高知→神戸→いわて花巻→名古屋小牧→福岡→松本→神戸→青森→名古屋小牧→福岡→静岡。2日間で計13回飛行機に乗る、ガッツリコースだ。

移動距離約7,250㎞、通常なら格安チケットを購入しても18万円近くかかる。コロナ禍で丸3年、空の旅とは縁遠い生活を送ってきた者としては、「さすがに乗りすぎでは?」と我ながらに思えるほど、欲張ってみた。

「何度目ですか?」「は、はじめてです」

1日目、今回の旅の出発地は、静岡空港。参加者の目印となる赤いネックストラップを首にかけ、FDAのカウンターへ向かうと、「乗り放題ですね。何度目ですか?」と笑顔のグランドスタッフ。こちらは「は、はじめてです」とドギマギ。どうやら、この旅にはリピーターが存在するらしい。そこで手渡されたのは、1日分の搭乗券7枚。思わず、「こんなにチケットを発行してもらうなんて、団体旅行みたいですね」。

午前8時10分、最初の目的地・出雲空港に向けて出発。直前の週末には、大雪の影響で欠航になったことから、無事飛ぶのか、少々不安もあったが、天はどうやら味方をしてくれたようだ。さて、FDAといえば、飛行機ごとに色が違うのが特徴。その数、なんと15色。「きょうは何色だろうか?」なんて、考えるのも楽しみの一つだ。今回は、真っ赤。「ドリームレッド」というそうで、FDAが初就航した2009年から日本の空を飛び続けている1号機だ。

大手でも、LCCでもない

ブラジル・エンブラエル社製の飛行機は全76席とコンパクトだが、シートは革製でゆったり。LCCとも異なり、機内サービスも充実している。地方都市を結ぶとあって、各地域のローカル紙が搭載され、オリジナルの機内誌も。さらには、最近では珍しくなったお菓子の無料サービスも(一部路線では飲み物と飴のみ)あり、大手航空会社にも引けを取らない。

「朝食になります」。朝便のサービスとして手渡されたのは、クロワッサンとコーヒー。なんと優雅な空の旅なんだろうか。出発前に、サンドウィッチを食べていたが、ここは「いただきます」。クロワッサンをほおばっていると「乗り放題に参加されていらっしゃるんですね」と客室乗務員から声を掛けられる。やはり、ネックストラップが目印になるようだ。きょうは、こんなコースで福岡まで行く、と説明をすると、「でしたら、神戸までご一緒させていただきます」。ん?どういうことなのか。

出雲までの道中、窓をのぞくと見えるのは雲ばかり。しかし、着陸のため徐々に高度を下げていくと、一気に雪景色が広がる。普段、雪を見ることがない静岡県民にとっては、テンションが上がる。午前9時35分、定刻通り出雲空港に着陸。ここから、この旅の醍醐味の一つ、怒とうの乗り継ぎが始まる。

滞在時間30分…怒とうの乗り継ぎ

旅行代理店からは「20分以上必要です。特に冬場は遅延が起きやすいので余裕を持ったスケジュールで」と念を押されていた。さらに、乗り継ぎのたびに、保安検査場を通らねばならず、普段なら、空の旅の余韻を楽しむようにゆっくり降機するタイプだが、この日ばかりは、そそくさと飛行機を降りる。せめて、「出雲の空気ぐらいは吸いたい」と一度空港の外へ出ると…やっぱり、寒かった。

出雲の滞在時間はわずか30分あまり、今度は名古屋小牧行きの飛行機に搭乗。待っていたのは、先ほど乗ったばかりの赤い飛行機。パイロットも、客室乗務員も同じ顔触れ。聞くと、このクルーは小牧→高知→神戸まで、飛行機はさらに、花巻→小牧まで飛ぶという。フライトごとに、機体の色が変わることを楽しみにしていた記者にとっては少し拍子抜け。ただ、定期路線以外にもチャーター便を積極的に飛ばしているFDAならではのやりくりなのだと妙に感心させられた。

小牧、高知を経て、午後2時前、神戸空港へ。中華街でゆったりランチと行きたいところだが、神戸での滞在時間も35分。ここはぐっと我慢をして、売店で買った明石名物たこめしのおにぎりを「いただきます」。搭乗を待っていたら「おたくも花巻?あそこは着陸前、機体がすごく揺れるよ」と男性に声をかけられる。この方の首にも、赤のネックストラップ。聞くと、もう何度もこのツアーに参加しているというベテランさん。やはり、この旅にはリピーターが存在したのだ。

「正直、乗りっぱなしは退屈?」

そもそも、FDAがこの乗り放題旅を始めたのは、2021年3月。広報部によると「コロナ禍で思い通りに運航ができない中、何とか、1人でも飛行機に乗ってもらいたい」という社員の声から生まれたという。これが予想外の反響を呼ぶ。不定期での開催にもかかわらず、回を追うごとに参加者が増え、気づけば、数十人規模の予約が入り、今回、第9弾の開催となった。広報部の石井俊さんは「正直、乗りっぱなしという方もいて、退屈なのではないか、と思っていたが、純粋に空の旅を楽しんで、いただけているのがうれしかった。飛行機が移動手段から、搭乗するというひとつのエンターテインメントになった」と話す。

リピーター続出!「新しい旅のあり方」

ユーザーにも聞いてみた。「飛行機に乗ることが好きなので、コロナ禍で打撃を受ける航空業界を応援したかった」と語るのは、愛知県在住のもぐ@morning gloryさん。「北海道から九州まで日本全国を1泊2日のうちに回れる旅はない」とすでに5回参加。乗りっぱなしの旅にも「観光地を巡るが観光しない、コロナ禍ならではの新しい旅のあり方に出会えた気がする」と語る。

一方、首都圏在住のLYCEEさんは「FDAのサービスとホスピタリティーが心地よい」という。「ある便で乗客が少なかった時、FA(客室乗務員)さんから『リクライニングを倒して、広々使ってください』と声をかけられた直後、コックピットからは『狭い機内ではございますが…』とアナウンス。思わず、飲み物を吹き出してしまった」。気づけば、FDAが就航していない地域に住んでいるにもかかわらず、リピーターに。「顔なじみの客室乗務員ができた」というLYCEEさん。この旅ならではの「あるある」だという。

“ホワイトインパルス”の威力

神戸→花巻→再び名古屋小牧を経て、記者が初日の目的地福岡に到着したのは、夜9時半。静岡空港を出発してから、すでに13時間半が経過していた。気になる機体の揺れもなく(花巻空港周辺もスムーズに)いたって快適な空の旅、ヨーロッパ便など国際線では、同じぐらいの時間、飛行機に乗りっぱなしという経験はあるが、肉体的な疲れは、それほど感じなかった。長い区間でも、1時間半程度のフライト時間がそうさせているのかもしれない。この旅、最大の目的だった「屋台でラーメン」もしっかり達成。

2日目のハイライトは、青森空港。国内で最も積雪量が多いという空港を支えるのが、除雪チーム「ホワイトインパルス」だ。この季節になると、さまざまなメディアでその活躍ぶりが紹介されているが、記者もその威力をまざまざと見せつけられることになる。

外は横殴りの雪…「お兄さん、もってるよ」

この日の3便目、快晴の神戸空港を離陸した飛行機は、雪化粧した能登半島、佐渡島を下に見ながら一路、青森へ。着陸態勢に入り、厚い雲を抜けると青森空港周辺は横殴りの雪。飛行機は一面真っ白になった滑走路に、何事もなく着陸したが、雪は積もるばかり。「もし、欠航になったら、どうやって静岡に戻ろうか」ヒヤヒヤする記者、「こんなのいつものことよ」と売店のお母さんは笑うが、正直気が気ではない。

そこに突如、姿を現したのが複数の除雪車。そう、これが、噂に聞いていたホワイトインパルスだ。「みれてよかったね。お兄さんもってるよ」と再び売店のお母さん。滑走路の除雪は、朝イチにするものだと思い込んでいただけに、まさにサプライズ。「少し待っててけろ」。隊長の青森なまりのアナウンスにあわせて、一糸乱れぬ動きをみせる除雪車の一団。気づけば、瞬く間に滑走路は、離着陸できるまでに整っていた。結局、名古屋小牧行きの遅延は、たった30分。ホワイトインパルス、恐るべし。

“十人十色の旅”

十人十色の乗り放題旅。その後無事、名古屋小牧、福岡と乗り継ぎ、最終目的地の静岡空港へ。2日間計13便の旅も無事終了を迎えた。『夢の乗り放題』という、ありそうでなかった斬新すぎる一手で、コロナ禍で苦戦を続ける業界で、大きなを存在感を示した静岡発の小さな航空会社。このチケットを使って、次はどんな旅をしてみようかと思わせてくれる、まさに夢の旅だった。

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