価格転嫁と賃上げの相関、中小企業ほど鮮明に

 東京商工リサーチ(TSR)が昨年12月に実施したアンケートを分析したところ、「価格転嫁率」と「賃上げ率」には相関関係があることがわかった。
 さらに、企業規模まで分析を広げると、両者の相関には違いがあることも明らかになった。

 「価格転嫁率」と「賃上げ率」の相関を規模別でみると、中小企業(資本金1億円未満、個人企業を含む)は、相関係数0.87と強い正の相関を示した。これに対し、大企業(資本金1億円以上)は-0.49と負の相関を示した。これは、中小企業では価格転嫁が進むほど賃上げ率も上昇するが、大企業では価格転嫁が進んでも賃上げ率の上昇にはつながらず、むしろ価格転嫁が進んだ大企業は賃上げ率が低いことを表している。
 特に、価格転嫁率が他の産業に比べて高い卸売業(大企業の平均価格転嫁率4.6割=100円のコスト上昇に対し、46円転嫁)と製造業(同3.4割=同34円転嫁)で、大企業の平均賃上げ率は卸売業1.7%(中小企業2.7%)、製造業1.8%(同2.5%)にとどまる。

価格転嫁率と賃上げ率

 給与水準がもともと高い大企業では、中小企業に比べて賃上げ率は低くなる傾向がある。また、本分析に用いた賃上げ率は、2022年度の実績値を聞いたもので、今年の春闘では大きく変わる可能性もある。
 ただ、サプライチェーンの上流に位置することが多い大企業は、価格上昇に応じて従業員への還元や下請け企業(協力会社)への支払額の適正化などを進めることも必要だろう。
 コロナ禍からの回復や原材料高の影響は、業種や企業によりまちまちだ。こうした状況下でインフレ率を上回る賃上げを実現するには、売上見通しや財務内容、収益力など、様々な数値の分析と経営判断が必要で、多くの企業が高いハードルをどう乗り越えるか注目される。

  • ※本分析は、TSRが2022年12月1日~8日に実施した企業アンケートから、「価格転嫁率」と、「2022年度に実施した賃上げの割合(=賃上げ率)」に回答した2,359社のデータを基に分析した。
価格転嫁率と賃上げ率

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年2月10日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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