【未来のF1ドライバー候補紹介:パロウ】F1リザーブの座を射止めた元インディ王者。マクラーレンが着目する適応力の高さ

 各F1チームがシーズンに2回、F1昇格を狙うドライバーを金曜プラクティスで起用しなければならないという規則が2022年に導入された。その目的は、テストの機会が非常に限られる状況のなかで、若手ドライバーにF1マシンに乗るチャンスを与えることだ。

 当連載では、F1ジャーナリストのクリス・メッドランド氏が、FP1ドライバーとして選ばれたドライバーひとりひとりのここまでのパフォーマンスを評価し、将来性を探る。今回は、マクラーレンからFP1に出場、2023年のリザーブドライバーに就任したアレックス・パロウに焦点を当てた。

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 2022年シーズンがスタートした時点で、アレックス・パロウがこの年のFP1で走行すると予想した者はほとんどいなかっただろう。ところが、彼はF1のプラクティスデビューを飾った上に、2023年のマクラーレンF1リザードライバーの座まで確保した。

 もちろん、パロウは極めて才能のあるドライバーだ。特に2021年にインディカーシリーズでタイトルを獲得したことで、急激に注目度が上がった。

 スペイン出身のパロウのキャリアには浮き沈みがあった。最初は好調で2014年のスペインF3とユーロフォーミュラ・オープンで良い成績を残した後、翌2015年にGP3にステップアップ。この年、彼が所属したカンポスはチームランキングでは下から2番目だったが、パロウは1勝を挙げてチームのポイント51点すべてを稼ぎ、ドライバーズ選手権で10位を獲得した。

 しかし2016年にカンポスに残ったパロウは、チームメイトのひとりに敗れ、ランキング15位と、勢いを失った。2017年には全日本F3選手権に参戦し、ランキング3位を獲得。シーズン終盤にはF2に出場し、デビューしたヘレス戦で2連続入賞を飾った。翌2018年にヨーロピアンF3で走った後、2019年には日本に戻り、全日本スーパーフォーミュラ選手権に参戦し、ランキング3位をつかんでいる。

スーパーフォーミュラ第4戦を制したアレックス・パロウ(TCS NAKAJIMA RACING)

 2020年にはインディカーに活動の場を移し、ルーキーシリーズから強さを発揮、2年目の2021年にチップ・ガナッシと共に王座に就いた。

インディカー参戦2年目でチャンピオンに輝いたアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)

 彼の適応の速さに目をつけたのがマクラーレンのCEOザク・ブラウンだ。異なるカテゴリーですぐさま力を発揮できるパロウは、F1、インディカー、フォーミュラEと、複数のカテゴリーに参戦するマクラーレンに最適なドライバーであると、ブラウンは考えた。

 ブラウンはパロウと2023年の契約を結び、彼を2023年のマクラーレン・レーシングのドライバーラインアップに加えると発表。ところがパロウとガナッシの間には有効な契約が存在したため、契約問題が裁判沙汰に発展した。最終的にはパロウは2023年にチップ・ガナッシに残留することが決まり、同時にマクラーレンF1カーをテストする機会は認められるという条件で、合意に達した。

 2022年のうちに、パロウはマクラーレンのプライベートテストでF1マシンに乗り、素晴らしいパフォーマンスを見せた。コルトン・ハータとパト・オワードの後で、マクラーレンの2021年型マシンに乗ったパロウは、F1にも短時間でうまく適応できる力があることをチームに対して証明した。それを見たブラウンと当時のチーム代表アンドレアス・ザイドルは、彼をアメリカGPのFP1で起用し、2022年型マシンに乗せることを決めたわけだ。

 アメリカGPの週末には、多数のインディカードライバーがサーキットを訪れ、パロウの走りを見守った。同僚たちのサポートを受けながら、パロウはミディアムタイヤでのランではレギュラードライバー、ランド・ノリスに匹敵する走りを見せ、チームを感心させた。マクラーレンは12月1日、パロウをF1チームの2023年リザーブドライバーに任命すると発表した。

アレックス・パロウ、バルセロナでのマクラーレンF1テスト(MCL35M)に参加
2022年F1第19戦アメリカGP アレックス・パロウ(マクラーレン)

 現在25歳のパロウは、独特のルートを通って、F1へと近づき、2023年リザーブドライバーの座をつかんだ。過去2年にキャリアを大きく進めるなかで、プレッシャーに強いことも証明した。ここからレースシートまでたどり着くチャンスを得られるかどうか、今後の彼の動向が注目される。

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