地域維持への対応に苦心 人口減少と高齢化のスピード 突出 <長崎市政・田上市長4期16年>

炭鉱跡をバックに島の現実を語る近藤さん=長崎市池島町

 かつて炭鉱の島として栄えた長崎市の池島。冷たい海風が吹き付ける港近くで自治会長の近藤秀美(72)は「実感は湧かんね」と皮肉交じりに語った。
 県都長崎市では現在、新幹線開業に伴う長崎駅周辺の再開発や新市庁舎開庁など「100年に1度」とも言われるまちづくりが進む。だが池島から市中心部まではフェリーとバスを乗り継いで片道1時間半。1年以上足を運んでいない近藤にとって「まちなか」のニュースは新聞やテレビで知る世界だ。
 池島を含む外海地区は2005年に市に合併。最盛期には7千人を超えた島の人口も01年の閉山を経て、合併時には500人を切り、現在は100人ほどにまで減った。6割以上が65歳以上の高齢者だ。
 急速な人口減少に伴って島民は警察官駐在所の廃止やフェリー減便など次々と荒波にさらされた。近藤はこの間、釣り大会など身を粉にして地域活性化に取り組んできたが「生活インフラを維持できるか」と島の現状に強い危機感を抱く。
 田上富久(66)が市長に就任した07年からの16年間で市の人口は約5万人減り、昨年40万人を切った。九州の県庁所在地7市でこの間の減少幅を比較すると、佐賀市が約9千人、鹿児島市は約1万5千人。長崎市はさらに、65歳以上の人口が昨年3月末で33.5%と7市で唯一30%を超え、人口減少と高齢化のスピードは突出する。
 市は、人をできるだけ減らさないための対策と同時に、人口減少社会に対応した仕組みづくりに苦心する。目指すのは、中心部と商業、医療など都市機能が集まった地域拠点、周辺の生活地区を公共交通でつなぐ「ネットワーク型コンパクトシティ」。それを見据え、バス路線維持のため、市南部や東長崎での乗り継ぎ方式の導入にも踏み切った。
 行政機能も17年に「分権型」に再編。市内20カ所の「地域センター」で各種申請や相談を受け付け、より市民に身近な所でスピーディーに対応できる仕組みを整えた。池島でも、公的施設や点在するアパートを港に近い平地部分に集約する構想を描くが、「住み慣れた場所を離れたくない」と住民の抵抗感は根強く、容易には進まない。
 「自分たちの声は『中央』に届いとるとやろうか」。遠い目をして対岸を見詰める近藤。地域コミュニティーをどう維持していくのか。維持できるのか。縮む県都を象徴しているようにも映る池島の現実は、重い問いを投げかける。
=文中敬称略=


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