「職員力」向上掲げるも… 働く環境の整備途上 <長崎市政・田上市長4期16年>

「職員力」を発揮する環境を整えられるか。対策は途上だ=長崎市役所(本文とは関係ありません)

 昨年7月、長崎市長の田上富久は東京で一人の女性記者に頭を深々と下げた。女性が市幹部から性暴力被害を受けたのは2007年7月。15年にわたり心の傷と偏見に苦しみ続けた。田上が市長に就任してからの年月とほぼ重なる。
 女性は当時の市幹部(故人)から性被害に遭い、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症。問題発覚後、別の市幹部は虚偽の情報を周囲に話し、週刊誌取材に応じるなどして二次被害を助長した。日弁連は市に再発防止を勧告したが、市は放置。女性は19年、やむなく提訴した。
 長崎地裁は昨年5月、「市が二次被害を防ぐための注意義務に違反した」などと認定。約1975万円の賠償を命じ、市の敗訴が確定した。「重大な教訓として忘れず職員の意識向上に組織として取り組む」と女性に謝罪した田上。任期中、「職員力」向上を掲げ続けたが、職員が能力を発揮する以前に、内部ではハラスメント問題が影を落としていた。
 市は昨年、直近3年間のハラスメント状況を調査。回答した職員約1500人のうち「自分が受けた」が2割、「自分以外の人が受けた」は実に3割近くに上った。「暴言」「執拗(しつよう)な非難」などのパワハラが目立つ。未回答者は約2500人。「他に被害を申告できない人もいるはず」(市職員)との見方が強い。
 調査では人事課や相談窓口への被害相談は1割前後にとどまることも判明。ハラスメントの実態を知る内部の関係者によれば、相談が寄せられても、市が十分な調査や対処をせず放置するケースもあるという。「事なかれ主義が広がり、相談しづらい環境になっている」と関係者。
 ここ数年、メンタルヘルス問題による休職者は毎年65人以上に上る。1期目が毎年20~30人台だったのに比べると、増加ぶりが目立つ。行財政改革の一環で07年度以降、計約4300人だった正規職員を計約3100人に削減したり、行政ニーズの多様化に対応を迫られたりして、職員の負担が過重になったのも一因とみられる。
 このため市は、昨年11月から働き方改革を試行。「仕事をやめる・へらす・かえる」ためのアイデアを現場から募り、全職員で実行する取り組みだ。一職員から市長に転身した田上は、職員力について「もう一歩の工夫や、長崎に合うやり方を見つける積極性」を目指す考えを語ってきた。だが、そのための「土壌」を整えることができたのかは疑問符が付く。
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