地に足をつけ、新たなる加速を 初のエリア型カンファレンス――サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内1日目

第7回サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内(以下、本会議)が2月14日、2日間の日程で始まった。3年にわたったコロナ禍を経て、世界が再生に向けて踏み出した今年は、日本のビジネスの中心地である東京・丸の内で、初のエリア型カンファレンスとして開催。過去最高の参加登録者、約5500人の8割がリアルに会場を訪れ、「自らを見つめ直し、地に足をつけ、新たに加速する」ことへの決意を込めた「RECENTER & ACCELERATE(リセンター・アンド・アクセラレイト)」をテーマに、丸の内エリアの多くの場所で多彩な議論を繰り広げた。真に持続可能な未来へと人々の行動変容を促すために、いまブランドに強く求められている共創、連携の在り方とはどのようなものか。本会議初日のプレナリー(基調講演)を中心に速報する。 (サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

初めに主催者を代表してサステナブル・ブランド ジャパンの鈴木紳介カントリーディレクターが挨拶し、「SDGsの認知度は5年前の9.3%から89%まで大きく伸び、驚くべきスピードで認知が進んでいる」と報告。「これからは実行ベースへと速やかに移行しなければならない」と力を込めた。

ビジュアライゼーションが心を動かす

オープニングは、データビジュアライズデザイナーで慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程所属の山辺真幸氏。「心を動かす、気づきを促す、サスティナビリティのためのデータビジュアライゼーション」と題して、自身の研究課題である新型コロナウイルス変異株の伝播や太平洋を漂うマイクロプラスチックなどを映像で紹介。「どのようにして専門家が見ているビッグデータを一般市民にも届けることができるか、われわれ慶應義塾大学とNHKさん、さまざまな分野の専門家が協力して映像化に取り組んだ」と説明した。
 
スクリーン上には新型コロナに関するSNS上のつぶやきや地球上の海流、18世紀から100年間の大陸間航海ルート、森林と伐採木の移出先など、ビッグデータをビジュアル化した例が次々と映し出された。山辺氏は「(データの)結果だけ見せられても人の心はあまり動かない」と見せ方の大切さを指摘。「生のデータが持っている複雑さ、われわれ自身が今どういう状況にあるかを共有するようなビジュアライゼーションが心を動かす。実際どうなのか、それを見せる、共有することで、サスティナビリティの自分事化が進んでいく」とアピールした。

『勇気ある楽観主義者』として行動続ける決意を

続いて、今回、諸事情のため来日できなかったサステナブル・ブランド創設者のコーアン・スカジニア氏が米国からオンラインで登壇。気候変動による災害が世界中でコントロールできないほど頻発している現状に触れ、その原因を人類が「京都議定書が交わされた1997年には分かっていたことであるにもかかわらず、早く行動しなかった結果」であり、40年以上にわたり、「地球が補充できる倍のペースで、依然として経済のために資源の消費を行っているためだ」と主張した。

その上でコーアン氏は「過去200年の繁栄を実現してきた経済の原則が私たちの破滅につながっている」と言葉を重ね、「ビジネスリーダーとして賢明な判断をしなければならないストレスを私も皆さんも毎日感じているはずだ」とサステナブル・ブランドのグローバルリーダーとしての思いを吐露。しかし、そうした困難にあっても「ビジネスとブランドを成功させるために20年近く『勇気ある楽観主義者』として行動を続けてきた」のがサステナブル・ブランドであり、これからも「大胆に決意を持って、環境と社会のイノベーションを中核に据え、ブランドの影響力を活用し続ける」ことの重要性を強調した。

次に登壇した竹中工務店取締役執行役員社長の佐々木正人氏は「木造・木質建築推進と森林グランドサイクルによるサステナブル社会の実現」と題して、江戸初期の1610年にスタートした社の歴史と、最新の木造大規模建築について講演。「最良の作品を世に残し、社会に貢献する」という企業理念と、時代の要請に応える技術の両輪で業界の先端を走り続ける気概を語った。近年は特に都市部における中高層の木造建築に力を入れるとともに、街と森が互いに支え合う「森林グランドサイクル」を進めている。佐々木氏は林業活性化への視座を強調、「森の産業創出、あるいは社会として持続可能な森づくりも心がけている」としめくくった。

貧しさとは経済という制度によって課されたものだ

第14回ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士はビデオ登壇し、生活困窮者に無担保で起業や就労のための少額融資を行う「グラミン銀行」を1983年にバングラデシュで創設したきっかけを、「高利貸しにお金を借りるのであれば、私のところから借りればいい」という思いからだったと振り返った。同じ仕組みが他国へも広がっていくなかで、「貧しさとは経済という制度によって課されたものだ」と痛感したと言い、「人々を貧しさから救うためにはシステムの再構築が必要だ」と力を込めた。

そのために博士が構築したのが人々の問題を解決するための「ソーシャルビジネス」の概念であり、バングラデシュでは医療や再生エネルギーなど50社以上のソーシャル・ビジネス企業が生まれている。なにより大事なのは起業家精神で、博士はビデオメッセージの中でも「バングラデシュの若者に私はこう言います。自分を信じなさい、だれもが起業家になれる。そのための必要な要素を持っていると」と自身のモットーを強調。

そして、炭素排出ゼロと貧困者ゼロ、失業者ゼロの3つのゼロを掲げる博士の呼びかけで、世界40カ国で活動が進んでいる、12歳〜35歳までの若者が主体の「3 Zero Club」のイニシアチブを通じて「自分の行動で地球温暖化に資することはゼロにする。新しい行動をする。富の集中をしてきたのであれば、それもやめる。貧困ゼロを目指す」と宣言。「日本の若い人たちにもぜひ注目してほしい」と語りかけた。

サステナビリティは会社経営のど真ん中にある

左から足立氏、小野氏、モテルス氏、新名氏

「今サステナビリティ経営に必要なもの」と題したセッションには、サントリー食品インターナショナル専務執行役員の小野真紀子氏、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス アシスタントコミュニケーションマネージャーの新名司氏、Phillip Morris International Chief Sustainability Officerのジェニファー・モテルス氏の3氏が登壇し、足立直樹・SB国際会議サステナビリティプロデューサーと対話した。

足立氏は冒頭、「もはやサステナビリティというのは、付け足しではなく、会社経営のど真ん中にある」と力説。サステナビリティ経営の先進企業として紹介された3社は、原料を生産する農家への支援や、自社工場からの温室効果ガス排出量の削減など、継続的な取り組みによる成果を報告した。

さらなるサステナビリティ経営の推進について、小野氏は社内の意識変革の重要性を強調。新名氏は「明確で共感できるパーパスがあること」など5つのポイントを列挙し、「個人のパーパスとブランドのパーパスを結びつけていく作業を大切にしている」と説明した。一方、モテルス氏はサステナビリティ経営を進める上での課題について、「民間企業は短期的に物事を考えがちだが、絶え間ない努力、粘り強さが重要だ」と指摘。会場の参加者に向けて「一人一人の力を掛け合わせれば、素晴らしい未来につながると思う」と呼び掛けた。

7回目となる今年の国際会議は初めての試みが目白押しで、初日午後にもプレナリーセッションが行われたほか、丸の内エリアのあちこちで特別企画となる無料のオープンセミナーも開かれるなど、業種や世代や超えてサステナビリティやパーパスについて語り合う輪が広がっている。
[^undefined]

© 株式会社博展