地球の再生へ 国や世代超え世界のリーダーが登壇――サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内2日目

グローバルのSBから登壇したチャド・フリシュマン氏。コロナ禍を経て、今年は3年ぶりに海外からの登壇者や参加者が増えた

日本のビジネスの中心地で初のエリア型カンファレンスとして行われた「第7回サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内」。今年は3年ぶりに海外から訪れたスピーカーや参加者も多く、サステナビリティからリジェネレーション(再生)へ、そして多様性や公平性、帰属意識などさまざまなキーワードが飛び交う、2050年に向けた新たな世界の潮流を肌で感じる2日間となった。国境や世代を超えたリーダーたちが登壇した2日目のプレナリー(基調講演)の様子を報告する。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

海藻を育てる場所を確保し技術を開発

オープニングに登壇した合同会社シーベジタブル共同代表の友廣裕一氏は冒頭、「皆さん、人生で何種類くらい海藻って食べられたことありますか?」と呼び掛けた。日本の沿岸海域にある海藻は1500種類。そのすべてが食用になるが、実際に食べられているのは20数種しかないと指摘、そこから海をめぐる問題へと言葉をつなげた。

「磯焼けっていう言葉を聞いたことがありますか?海藻がすごい勢いでなくなっているんです」。友廣氏は、日本で海藻が消滅しているエリアが年間2000ヘクタールもの割合で増えていることに言及し、さらなる問題はその深刻さが認識されていないことだと訴えた。解決策として提示したのが海に海藻を増やすことだ。同社ではすでに海藻を育てる場所を確保し、技術を開発している。漁師もいる。「あとは出口だ」と言う。

現在、同社では、料理の専門家が海藻料理の開発に取り組んでいる。青のりと米麹と塩で海藻しょうゆも開発した。友廣氏は、消費を高めて「豊かな海をつくっていきたい」と講演を結んだ。

サステナビリティは持続可能ではない

グローバルのSBからは、「世界で最も効果的な気候ソリューション」として経済はもとより環境や人権にも配慮した復興策を提言するRegenIntelの創設者でCEOのチャド・フリシュマン氏が初めて来日し、人類が地球にとってポジティブな存在になることの重要性を訴えた。

フリシュマン氏は、今、世界で取り組みが進んでいるサステナビリティについて、その時点で「持続可能ではない」と指摘する。なぜなら「今の地球上の資源を活用することを前提とした、現在のシステムの中では、一人ひとりの幸福や健康を実現することはできない」と考えるからだ。「サステナビリティ以上の、リジェネレイティブな(再生可能な)ことをやっていく、つまり新しい経済社会の秩序をつくっていく必要がある」と繰り返し強調した。

気候変動を抑制するためのソリューションを導入することは、多大な費用対効果を生み出すことにもつながる。「地球を救うだけでなく、経済をも救うことになる。さらに貧困や飢餓、衛生環境、ジェンダー平等などSDGsの目標を達成することにも貢献する。世代を超え、皆が一丸となって、正しく実行すれば、です」。最後はそう力を込めた。

川崎重工業執行役員エネルギーソリューション&マリンカンパニー バイスプレジデント兼水素戦略本部の西村元彦氏は「水素なくしてカーボンニュートラルなし!―Kawasakiの挑戦―」と題してアピールした。

「脱炭素を進めるという一つの社会課題がある。もう一つの課題は生活のためにエネルギーをどうやって供給するか。背反する二つの課題を解決するソリューションとして水素が注目されている」と前置きし、水素について「宇宙で最も多い元素であり、究極のクリーンエネルギー」と指摘。「大量に長期間貯めることもでき、長距離輸送することもできる」と長所を並べた。

同社は2010年にいち早く水素のサプライチェーン構築を宣言した。西村氏は「この10年余り、遅れることなく取り組んできた」として、液化水素運搬船の投入など水素社会実現に向けた意気込みを強調し、話をしめくくった。

Jリーグは志を同じくする仲間

「企業が創出する新たな価値〜サステナブルな地域づくりのために〜」と題したセッションには、明治安田生命取締役代表執行役社長の永島英器氏と公益社団法人日本プロサッカーリーグチェアマンの野々村芳和氏が登壇した。明治安田生命は10年計画「MY Mutual Way 2030」を作成し、健康や地域、絆など「社会的価値」の創造に注力。自治体との連携協定の締結や道の駅での健康増進イベントなどを通して、「健康寿命の延伸」と「地方創生の推進」に取り組んでいる。それらの基盤となるのが、2014年から続けるJリーグとの協働だ。

「百年構想」や「ホームタウン制」といった理念を持つJリーグについて、永島氏は「志を同じくする仲間」と表現。小学生向けのサッカー教室などとのタイアップ企画を紹介し、「全国各地に営業拠点を構える明治安田生命の強みと、スポーツを通じて地域に密着しているJリーグ・Jクラブとの強みを結合させる」と強調した。Jリーグは30年前に10クラブでスタートし、現在は60クラブに増加。それぞれがホームタウン(地域)活動を積極的に展開し、2018年には社会連携活動「シャレン!」を立ち上げるなど、社会貢献活動に取り組んでいる。

野々村氏は「クラブにできることはたくさんある。スポーツを通して、地域社会を幸せにしていきたい」と力を込めた。締めくくりとしてマイクを握った永島氏は「両者でタッグを組み、地域の皆さまと手を取り合い、地方創生に向けて行動していく」と力強く宣言した。

内発的動機に基づく挑戦が生まれる文化に

続いてSOMPOホールディングスのグループCSuO執行役、下川亮子氏が「MYパーパスを起点としたSOMPOのパーパス経営」のテーマで講演した。パーパス経営が注目される中、下川氏は社員個人の「MYパーパス」の取り組みを紹介。会社のパーパスと重ね合わせることで「内発的動機に基づくチャレンジ、イノベーションが生まれる文化に変えていくことが狙い」と説明。パーパス浸透への取り組みとして、タウンホールミーティングでのグループCEOによる発信やワークショップの開催、表彰制度の創設などを紹介した。

下川氏は「企業価値の向上につながらないと、ステークホルダーから評価されない」とし、MYパーパスを起点とした取り組みをビジネスの質の向上、新しい価値の創造につなげる必要性を強調。その上で「MYパーパスを起点に個人が変わり、対話を通じて上司と部下が変わり、組織が変わって、最終的に持続可能なより良い社会の実現へリードしていきたい」と意気込みを語った。

人財価値を最大化させるサステナビリティ経営とは

SX(サステナブル・トランスフォーメーション)の実践のためには人的資本への投資が必要だ。KDDIの執行役員でサステナビリティ経営推進本部長の最勝寺(さいしょうじ)奈苗氏と、花王の上席執行役員で人財戦略部門の間宮秀樹氏が登壇し、田中信康・SB国際会議ESGプロデューサーと語り合った。

KDDIは「人財ファースト企業への変革」を経営基盤強化のための主要テーマと、重要課題(マテアリティ)の一つにそれぞれ掲げる。特に力を入れているのがDX人財の育成で、社内に「DX ユニバーシティ」という教育機関を設け、「全専門領域でプロ人財の比率を30%に高める」(最勝寺氏)のを目標にしているという。

一方の花王は、中期経営計画の柱の一つに「社員活力の最大化」を掲げ、その切り札に新人財活性化制度「OKR」(Objectives and Key Results)を据える。これは、社員起点で目標を設定し、社内で共有しながら達成を目指すというもので、間宮氏は、「少し高めの目標を設定することで、自ら努力し、周りとも連携しながらチャレンジしていく組織風土を醸成したい」と話した。

両社とも課題は「社員への浸透」にある。田中氏は、「社員の自立心をくすぐり、マインドを高めようという点で共通している。キーワードは透明性のあるコミュニケーションだ」とまとめた。

三菱地所代表執行役執行役専務の中島篤氏は「Our Sustainability Journey -三菱地所の現在地-」と題して同社が力を入れるSDGsの取り組みを発信した。

中島氏は「経営のベースとなる価値観の一つにサステナビリティを明確に位置づけた」と前置きし、環境問題やダイバーシティーなどへの取り組みを説明。「東京都内、横浜市内に所有するすべてのオフィスビル商業施設約50棟のすべての電力を再生可能エネルギー由来の電力にした」「男性の育休については2030年までに100%という目標を掲げた」と例を挙げた。

最後にアピールしたのは大手町・丸の内・有楽町エリアで展開する「大丸有SDGsACT5」の取り組みだ。エリア内外の企業団体が連携してSDGsを推進するもので、2020年にスタート。昨年は7カ月で延べ1万6000人以上が参加したといい、中島氏は「社会課題解決型のコミュニティ形成を目指している」と目標を語った。

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