恩送りの夜

 予報によればきょう、あすは気温が上がるが、週明けには寒さが戻るらしい。三寒四温を肌で感じる頃だが、「寒」と「温」の行ったり来たりは「春近し」の知らせでもある▲冬の出口を前方に見ながら、この冬にまつわる出来事を振り返ってみる。考えるまでもなく、1月24日の暴風を伴う大雪を思い起こす人は多いだろう▲この欄に書いたが、当方もその一人で、車のハンドルを握って帰宅途中、降りしきる雪と路面の凍結のため上り坂で身動きが取れなくなった▲途方に暮れる身に、道路の脇でカフェを営む人が「車、店の駐車場に…」と勧めてくださった。そばのご自宅から立ち往生の様子を見たのだろう、小学生と中学生くらいの姉妹が使い切りカイロを手渡しに来てくれた▲このありがたい話を書いたら、60代の女性からはがきを頂いた。〈きっとあなたは、誰かの恩送りでホッコリする出来事に出会えたのだと思います〉。人に受けた恩をその人に返すのは「恩返し」だが、別の誰かに送るのを「恩送り」という。あの極寒の夜、当方は恩のバトンを受けたらしい▲恩とは恵みや情けのことで、「恵む」と読みが同じ言葉の「芽ぐむ」は草花が芽吹くことをいう。心に一輪の花が芽ぐむ夜だったと思い返しては、そう、次はバトンを渡す番だとわきまえる。(徹)


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