原発活用は適切、バックエンドは全国自治体で負担を 有識者インタビュー・山口彰氏に聞く

山口彰氏

 政府は、電力の安定供給と脱炭素化の両立を図る「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定し、原子力政策を大きく転換した。経済産業省総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で議論を取りまとめた山口彰委員長は「将来の展望を見据えた責任ある方針」と指摘。高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分をはじめとする後処理(バックエンド)問題では「(全国の)それぞれの自治体がそれなりの負担をする社会を」と訴えた。

 ―政府は原発の積極活用に政策転換した。

 「適切な方向性を示してもらった。ただ、政策転換だとは思っていない。東京電力福島第1原発事故の教訓を反映し、安全最優先で必要な規模を見極めていく。原子力を持続的に活用することによってエネルギー安全保障と脱炭素の両立を果たすといった流れはずっと同じだ」

 ―岸田文雄首相が既存原発の運転期間延長や建て替えの検討を指示してから4カ月で基本方針が決まった。議論の進め方やプロセスに問題はなかったか。

 「原子力小委員会は、福島事故以降の10年間で35回会合を開いている。ワーキンググループなども含めれば相当な議論を積み重ねてきた。議論の順序、質と量においても、プロセスは相当丁寧に行ってきた」

 ―議論の過程で、県内では立地地域への説明を求める声が上がった。

 「杉本達治知事には原子力小委員会の委員として意見をもらった。時間の経過として議論の場に直接立地地域の方々が入ってという形ではなかったが、地域の考えや将来の構想は常に最優先だった」

 ―ウクライナ危機で日本のエネルギー安全保障のもろさが露呈した。

 「明確になった課題は、電力逼迫(ひっぱく)から脱することとエネルギー政策の遅滞だ。足元の短期的な問題への対処と、構造的な問題を解決するため時間をかけて取り組むものの両方を並行して進めないといけない」

 ―電源構成に占める原子力の割合は2021年度に6.6%だった。国のエネルギー基本計画では30年の目標を20~22%としていて、大きな開きがある。

 「厳しい。30年の国内の総発電量見通しは9340億キロワット時。原子力の割合が20%とした場合、1870億キロワット時くらいになる。設備利用率80%とすると27基、85%だと25基必要になる。現状は再稼働10基、審査合格済みは7基。あと8基必要になる」

 ―一方で、エネルギー基本計画では「原子力の依存度を限りなく低減する」と明記しており、見直しを求める声もある。

 「一つのエネルギーに過度に依存することへの危うさはある。エネルギー基本計画を見直すべきとの考え方には賛成で、計画の文言は丁寧に見ていくべきだと思う。ただ、今は基本計画や基本方針を実行に移すことが最も重要だ」

 ―革新軽水炉へ建て替える場合、1基当たり1兆円かかると言われる。厳しい経営が続く電力会社は建て替えに踏み出せるのか。

 「韓国では5千億円で建設した。原発は初期投資は大きいが建設すれば長期にわたって回収できる。電力会社や国がエネルギー安定供給のために投資できる状況が必要。国民に説明し理解を得ることも必要だ」

 ―バックエンド問題は山積している。

 「考え方ややり方を変えるチャンスだが難しい課題だ。それぞれの自治体がそれなりの負担をする社会を目指さないといけない」

 ―福島事故以降、原子力業界は先細りしている。

 「運転延長や建て替えを今後するならば、日本の原子力業界としてどういう人がどれくらい必要かを国レベルで考えるべきだ」

 ◇山口彰氏(やまぐち・あきら)1957年島根県生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。原子力の安全性や次世代革新炉、エネルギー政策などが専門。大阪大学環境エネルギー工学専攻教授、東京大学原子力専攻教授を経て、原子力安全研究協会理事。

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 電力の安定供給と脱炭素化に向け、政府は原発の積極活用へかじを切った。多様な立場・分野の有識者らから原子力政策の行方や向き合い方を聞いた。

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