紫式部も口ずさんだ?古代歌謡のメロディー令和に復活 「道の口、武生の国府に…」NHK大河へ演奏計画

催馬楽「道の口」の資料をたどり旋律を再現した池田正男さん=福井県越前市内

 奈良・平安時代の越前国府が武生(たけふ)=現福井県越前市=にあった史実を歌詞で伝える古代歌謡の催馬楽「道の口」について、同市の郷土史愛好家の池田正男さん(78)が関連資料をたどり、これまで不明だった旋律を楽譜に再現した。源氏物語の記述から紫式部も口ずさんだと推察されるメロディーを、千年以上の時を超えてよみがえらせた。式部を主人公とする2024年のNHK大河ドラマ放送を見据え、譜面に基づく雅楽演奏の計画も動き出した。

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 8世紀末から9世紀初めに成立したとされる催馬楽の一つ「道の口」は、「道の口 武生の国府に 我はありと―」と歌われていた。旧武生町の地名の由来であり、歌詞は文献で知られているものの、旋律は明らかになっていなかった。

 武生は紫式部が生涯で唯一都を離れて暮らした地。式部が著した源氏物語には「武生の国府にうつろい給うとも」(浮舟の巻)、「武生チチリチチリチリタンナ」(手習の巻)と、「武生」が2カ所登場する。市民グループ「武生古文書学習会」の池田さんは「チチリ―」について、道の口の箏の節回しを口ずさんだもので「武生で聞いたメロディーを思い出しての記述に違いない」と確信。昨年初めごろから楽譜に迫る調査にとりかかった。

 催馬楽の雅楽演奏は箏、琵琶、笙、篳篥(ひちりき)、竜笛の五つの楽器と歌で構成される。池田さんは国会図書館の蔵書や宮内庁文書から道の口の譜面を探り当てたが、記されていたのは歌と箏、琵琶の旋律だけだった。

 そこで、催馬楽の中でも楽譜が残る「更衣(ころもがえ)」が、道の口と同グループの旋律だったとする論文の記録に着目。譜面から共通の部分を照合して残りの楽器の音階を割り出し、漢数字や特殊な記号で旋律を表す雅楽譜に落とし込んだ。

 同様の方法で武生にゆかりのある「刺櫛(さしぐし)」「浅水橋」の2曲の雅楽譜も作成。別の資料から五線譜でも旋律を再現し、パソコンの専用ソフトで再生を楽しんでいる。

 池田さんは、大河ドラマ「光る君へ」に向けた演奏披露を、福井県雅楽会の大瀧雅樹楽長(越前市)に提案。大瀧さんは「これまで演奏したくてもできなかった道の口のメロディーが分かったのは画期的」として、催しなどに合わせた演奏を見据えて会員たちと練習を始めることにした。

 越前市文化課の担当者は「道の口の調査はこれまで歌詞にまつわるものだけで、節回しを再現しようという発想は聞いたことがなかった」と話す。池田さんは「式部が武生に寄せた愛着を、曲の再現によって一つの形にしたかった。越前市の歴史の深さを広く知ってもらうきっかけにしたい」と願っている。

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