医療機関まで“1時間以上かかる”6割… 西海市「命を守る道路」早期整備を

西彼杵半島を縦貫する西彼杵道路。西海市にとっては「命を守る道路」となっている=同市西彼町

 高速交通網の空白地帯となっている西彼杵半島を縦貫する高規格道路「西彼杵道路」(長崎県佐世保市-西彼時津町、総延長約46キロ)。観光、産業などの活性化や交流人口の拡大、災害時の緊急ルートとしての効果が期待されている。特に、入院や手術を要する患者を24時間体制で受け入れる第二次救急医療機関がない西海市にとっては「命を守る道路」でもあり、早期整備が必要不可欠となっている。
 これまで佐世保市指方町-西海市西彼町平山郷(14.2キロ)、時津町日並郷-野田郷(3.4キロ)を供用。本年度は平山郷から白似田郷に至る西彼町内の6.6キロが「大串白似田バイパス」として新規事業化されたが、開通までには10年ほどかかる見通しとなっている。
 西彼町の50代女性は昨年、2度救急車で搬送された。最初は春。自宅でくつろいでいた夜の9時過ぎ、突然、強い頭痛に襲われた。「今までにない痛み。立っていられなかった」。家族が119番通報し、10~15分ほどで救急車が到着。隊員からは「脳梗塞か脳腫瘍の疑いがある」と言われた。40分ほどかかっただろうか、佐世保市北部の病院に運び込まれた。一晩中検査を受け、幸いどこにも異常はなかった。
 2度目は夏の朝だった。自宅近くの事務所で仕事を始めてすぐ、胸に激痛が走り呼吸が苦しくなった。どうにか車を運転して、時折、利用していた長崎市琴海形上町の病院へ。診察の結果は肺に穴があく病気「気胸」。救急車で長崎市内の救急病院に搬送され、2日後に手術。2週間入院した。
 その後は元気に暮らしているが、「市内に大きな病院がないのは、本当に大変だと改めて思った。また何かあったら…」と不安は募る。周りには長崎や佐世保の病院に通っている人も多く、「年を取ったらどうしようか、真剣に考えないといけない」とこぼす。
 西海市は佐世保市に消防事務を委託しており、東消防署の西彼、大崎(大島町)、大瀬戸の3出張所が救急搬送に対応している。西海市によると、2021年の救急搬送者数は1130人(前年比22人増)。佐世保市682人、長崎市247人、西彼長与・時津町74人と、その多くが西海市外に搬送されている。
 覚知から医療機関収容までの時間は30分以上60分未満が35.6%、60分以上100分未満が55.5%、100分以上が6.3%-など。60分以上が6割を超え、全国平均(21年42.8分)を大幅に上回っている。
 搬送の問題を含め緊急医療体制の構築は、西海市の長年の課題となっている。市が19年に行った地域医療に関するアンケートでは「今後、より充実してもらいたい医療機能」として「救急医療」が7割を超えた。市総合計画に関する20年度のアンケートでも「これからのまちづくりにおいて大切だと思うこと」で、最も関心が高かったのは「医療体制の充実」だった。
 市は21年3月に医療プランを策定。独自の施策を行ってきた中、光明も見えてきた。民間の広域医療法人が救急告示診療所の新規開設を計画。市が属している長崎医療圏は病床過剰地域とされているため、現在、救急医療を目的とした特例診療所としての認定へ向け、手続きが進められている。順調にいけば、来年秋にも開院の運びとなる。


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