東出昌大さん「純粋無垢な愛のために感情ぶつかる。だから人間って面白い」 福井県で一時過ごした三好達治の愛憎劇…映画「天上の花」主演インタビュー

三好達治を演じた東出昌大さん(右)と慶子役の入山法子さん。「天上の花」より ©2022「天上の花」製作運動体
オンライン取材に応じる東出昌大さん

 戦中戦後の一時期を福井県坂井市三国町で過ごした詩人三好達治(1900~64年)を取り上げた映画「天上の花」が2月25日から、福井市の福井メトロ劇場で上映される。師と慕った詩人萩原朔太郎の妹との三国での愛憎劇。三好を演じた俳優東出昌大さんが福井新聞のインタビューに応じ「三好の純真無垢な愛のために感情がぶつかってしまう。一言で言い切れないのが三好であり、そうであるから人間って面白いと改めて感じた」と語る。

 朔太郎の娘である葉子が1966年に発表した同名小説「天上の花-三好達治抄-」が原作のフィクション。三好は妻子と離縁してまで迎えた朔太郎の妹(小説、映画での名前は慶子)との暮らしのはずだったが、一途な愛と、その裏返しの憎しみが次第に三好の心をむしばんでいき、思いもよらぬ結末を迎える。

 福井での上映を前にオンラインでの取材に応じた東出さんは、「フィクション上の三好達治」と断った上で「(16年4カ月も思い続けていた)慶子を女神のように神格化していた。しかし慶子は生身の女性で、三好の理想像とは違っていたのではないか」と解釈する。

⇒【写真】オンライン取材で笑顔を見せる東出昌大さん

 物語では戦争も三好に影響を与える。戦意高揚のための戦争詩を書いた三好。「詩人として(戦争詩を書いたことに)さいなまされていたのだろうと思う」と東出さん。劇中、「雪」「捷報(しょうほう)いたる」などの三好の詩が登場しアクセントを添える。

 冬の日本海側の凜(りん)として美しく、荒々しい季節の中で、三好と慶子の感情は激しくぶつかり合う。東出さんは「(慶子役の)入山(法子)さんとはたくさん話し、どういう気持ちの流れでこのシーンを迎えるのかなどお互いの手の内を見せ合った」と振り返る。

 物語の最終盤にある雨の中の三好のシーンは「三好の“再生”だと思う」と東出さん。「演じきった今でも三好のことが分からなかったり、後になってこういうことかなと思うこともある。この映画は一筋縄ではいかない作品。人間や人生を考えるきっかけになれば」と話す。

⇒【写真】映画「天上の花」のワンシーン

 劇中、重要な役どころとして、三国高美術部顧問だった現代美術家の故小野忠弘さん、三国町出身の詩人、故畠中哲夫さんも登場する。ロケは新潟県柏崎市や上越市などで行われた。

 福井メトロ劇場では上映初日の25日、片嶋一貴監督と寺脇研プロデューサーが舞台あいさつする。26日は福井県立美術館の西村直樹総括学芸員による「三好達治と小野忠弘」と題した講演がある。ともに午後1時45分から。問い合わせは同劇場=電話0776(22)1772。

ひがしで・まさひろ 1988年、埼玉県出身。2012年映画「桐島、部活やめるってよ」で俳優デビュー。同作で日本アカデミー新人俳優賞。映画のほか、NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」「ごちそうさん」、大河ドラマ「花燃ゆ」など多数出演。

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