「もっと公助を充実させる…」 説得力あるビジョン見えず <検証・大石県政 就任1年①>

県の発展を願い、もちをつく知事=2022年12月31日、大村市の富松神社

 昨年大みそかの深夜。「初心に帰ろうと今年も来ました」。大石賢吾知事はシルバーの着物姿で、妻の地元でもある大村市の富松神社に現れた。恒例の餅つきの準備をしていた氏子青年会の人たちは歓迎し、一緒に写真に納まった。知事は「2023年が長崎県民にとって良い1年になりますように」と声に出しながらきねを振り下ろした。
 ちょうど1年前、まだ「知事選立候補予定者」だった大石知事はスーツ姿で同神社の鳥居のそばに立ち、初めての街頭あいさつをした。当時は名乗っても素通りする人が多かったが、今回は神社関係者らも知事の元を訪れて談笑。取り巻く環境が一変したことを如実に物語っていた。
 ただ、541票という僅差で知事選に勝利し高まった期待感とは裏腹に、最近は「政策よりパフォーマンスが先行している」といった指摘が周囲から相次ぐ。
 昨年8月、米ニューヨークの国連本部で開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議。大石知事は歴代知事の中で初めて同会議に合わせて渡米し、広島県とシンポジウムを共催。被爆者からは評価する声が聞かれたが、知事の周辺からは渡米を思いとどまるよう求める意見もあった。
 従来、県は被爆地の長崎市長に平和関連事業の「主役」を任せてきた。同会議でも田上富久市長が非政府組織(NGO)平和首長会議を代表してスピーチを予定しており、県庁内では当初、それ以上の知事の役割が見いだせず渡米に否定的な空気も漂っていた。しかも、この時期は新型コロナウイルス感染が急拡大。県は感染対策の司令塔の役割を担うが、知事は「(感染対策などの)職務に専念できない」として副知事を職務代理者に指名し渡米した。
 知事の周辺が懸念するのは、世界に長崎、広島の2都市だけの「戦争被爆地」を“看板”にすればメディア露出は増えるが、一方で、それ以外の各種政策がおそろかになりかねないということだ。
 実際、就任後初の本格編成となった新年度当初予算案を見ても、目立つのは知事選公約でもある、医療費の助成対象を高校生まで拡充する事業くらい。昨年12月の定例県議会で浅田眞澄美議員(自民)は新年度の主要施策素案を取り上げ、「『新』『新』『新』と書かれた事業が並んでいるが、(これまでと)言葉が違うだけで継続案件が非常に多い。知事の覚悟が感じられない」と指摘した。
 医師として老老介護の夫婦宅を訪問診療した際、医療・福祉が十分に行き届いていない現場を目の当たりにし、「もっと公助を充実させる必要がある」と政治を志した知事。その理念を県政にどう反映させるのか。説得力のあるビジョンはまだ見えない。

 大石知事が就任して3月2日で1年となる。これまでの歩みを検証する。


© 株式会社長崎新聞社