制約を越えて

 「行っといで」とでも声をかけただろうか。〈受験子(じゅけんし)を励ます背ナをどんと押す〉久保晴子。こういう親御さんもいれば、これといって励ます声もかけず、あえていつも通りに送り出した人もいるだろう。〈受験子の旅立つ朝を常(つね)の如(ごと)〉稲畑汀子(いなはたていこ)▲受験生もまた「常のごと」-つまり平常心、平常心、と自分に言い聞かせた人も少なくあるまい。国公立大学の2次試験の前期日程がきのう始まり、県内では3400人ほどが挑んだ▲思えば、現役の高校生で受験した人は、入学した3年前にはすでにコロナ禍にあった。修学旅行は海外の予定が国内に変更され、文化祭なし、体育祭も家族の応援なし、または少数に限る…と、数え切れない「制約」を伴う3年間だったと聞く▲受験でもコロナ対策は切り離せない。この4月から、学校の教育活動でマスク着用は求めないと決まったが、この入試ではマスクの着用も換気も、昨年までのように徹底されたという▲いつの世も大変ではない受験などありはしないが、とりわけ大変な3年間を過ごした受験生、支える人、見守る人はいま、ヤマ場を越えて大きく安堵(あんど)の息をついている頃だろうか▲「辛(つら)い」の「辛」に横棒のハードル、「一」という字を足せば「幸」になる。横棒を越えたばかりの皆さんに幸多き春が来ることを。(徹)

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