逆境にも火種絶やさず 大村・東彼が3年越し“V3” 長崎県下一周駅伝 代替大会

こぶしを上げて総合優勝のゴールテープを切る大村・東彼のアンカー横山翔(長崎市役所)=トラスタ

 熱は確実に冷めていた。それでも、火種は絶やさなかった。
 直近の2020年大会まで総合2連覇してきた大村・東彼が、距離や区間が大幅に変わった今回も定位置を譲らなかった。その戦いぶりを、野口康之総監督(九州電通)は「わずかに残っていた火種に女子が着火し、男子が燃え盛らせてくれた」と表現した。
 20年大会まで向かうところ敵なしだったが、直後にコロナ禍に入って選手のモチベーションが低下。社会人ランナーが少しずつ競技場から離れ、小学生が競技を始めるきっかけとなっている大村陸上クラブの部員も大幅に減った。県下一周が何年も開かれない影響は大きかった。
 不安要素は他にもあった。代替大会の今回、走行距離が通常大会の7分の1以下に短縮。さらに大学生の参加は県内在住者に限られた。従来、大村・東彼の強さは関東や関西で活躍する大学生に長距離区間を任せることで成り立っている。苦戦必至だったが、この逆境に選手たちが燃えた。

1~3区の連続区間賞で飛び出した大村・東彼。3区藤丸結(諫早高、左)から4区蔦野奈々紗(桜が原中)に笑顔でたすきリレー=トラスタ

 1区に抜てきされた中学1年の中村心美(郡中)が「走るからには1番で渡したい」と期待以上の好走でたすきリレー直前で先頭に立つと、その後は区間を重ねるごとに勢いを増し、まず女子で独走V。上位が目まぐるしく入れ替わった男子は最長区間のアンカー横山翔(長崎市役所)でトップを奪った。
 横山は大会が開かれない中でも早朝5時に起きて10キロ走り、大村から長崎まで高速バスで通勤する生活を送ってきた。「県下一周に出ると家族や周りが喜んでくれる。だから走り続けている」。今大会の開催を待ち望んだ選手たちのこうした火種が集まって、郷土のたすきを3年越しの“V3”へ導いた。


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