コロナ禍の高校生活「無駄じゃない」 “危機”乗り越え卒業 高校3年生の思い

新型コロナ禍の3年間を乗り越えた高校3年生たちは、それぞれの夢に一歩を踏み出す(写真はイメージ

 2020年4月8日、県立長崎東高の入学式。当時15歳の松浦実継は、新入生代表として体育館のステージで誓った。「悔いの残らない高校生活を送りたい」-。新型コロナウイルスが世界で猛威を振るう中、さまざまな制約を抱えた高校生活が始まった。
 入学後間もなく一斉休校となり、部活動や行事も中止。初対面の級友の顔半分はマスクで覆われ、昼食は全員が同じ向きで黙々と食べた。中学時代に思い描いた「当たり前」の高校生活を奪われた日々。「じゃまだな」「わずらわしい」。未知のウイルスに不満を募らせた。
 それでも少しずつ取り戻した日常。高校から始めた弓道は個人県2位の成績を収め、体育祭や文化祭にも級友と熱を入れた。18歳となり、1年生の自分に「全力で生きてきた」と自信を持って言えそうだ。
 「今後もコロナに限らず人生で“危機”はあると思うけど、これを乗り越えたから大丈夫」。卒業を控えた今、そう思える。
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 3月1日、県内多くの高校で卒業式がある。卒業生は、高校3年間全てをコロナ禍で過ごした初めての世代。壁を越え、新たな「一歩」を踏み出す18歳のこれまでと、これから-。

◎コロナ禍は「無駄じゃない」 卒業する高校3年生の思い

 新型コロナウイルス禍を乗り越え卒業する高校3年生。その胸に秘めた思いとは-。

学校生活にさまざまな制約をもたらした新型コロナウイルス禍。生徒たちは少しずつ日常を取り戻してきた(写真はイメージ)

 ■悔しさバネに
 3年前の春。県立対馬高に入学したばかりの宮野砂海(18)は、悶々(もんもん)としていた。韓国の男性アイドルグループ「BIGBANG」に憧れ、韓国語を学ぼうと地元長崎市から離島留学。なのに授業のほとんどはオンラインで、マスク越しの先生や同級生の顔もよく分からない。不安が募った。
 国際感覚や語学力を磨く韓国研修も中止に。「失望感」の一方、悔しさと挑戦心が砂海を突き動かした。韓国の大学などが開くオンラインの韓国語スピーチ大会で優秀賞を受け、「韓国語能力検定」は2年生で最高の6級合格。「島でできること」に全力を注いだ。
 今春、ソウルの名門・延世大言論広報映像学部に進み、将来はメディアや航空業界を志す。「世界で活躍して対馬の『歩く広告塔』に」との思いも芽生えた。高校生活に心残りがないわけではないが、砂海はきっぱりと言い切る。「コロナだからできたこともある。3年間は無駄じゃなかった」

 ■人は変われる
 西竹愛華(18)は県立佐世保中央高夜間部に通い、勉学とアルバイトを両立してきた。家庭の事情で希望校を諦め同校へ。通学費や携帯代を賄うため1年生の7月から飲食店で働き、疲れた体で午後5時過ぎからの授業に臨んだ。
 学校行事の中止、バイト先の時短営業、家族や自身の感染…。「バイトが終わって学校に行く時間に、昼の子は帰ってる。制服姿がきらきらして見えて、うらやましく思う日もあった」と明かす愛華。それでも歯科衛生士になる夢を追い、専門学校入学に向け眠たい目をこすって勉強した。
 昨秋、専門学校の合格通知が届いた。“普通”とは少し違う学び方やコロナ禍の制限に悩み、戸惑いながら、つかんだ夢への切符。「諦めずによかった。人は変われるんだ」。愛華は目を輝かせて言った。

 ■ポジティブに
 県立鹿町工業高の野球部の前主将、横田優人(18)。最後の県大会は優勝校に1点差で惜敗し、甲子園の夢はついえた。たび重なる活動停止、あと一歩で逃した勝利に悔しさは残るが「つらい中で楽しみを見つける楽しさがあった」。
 道しるべは先輩だ。優人の入学後、大会は相次いで中止。当時の3年生は夢舞台への挑戦権すら失いながら、背中で引っ張ってくれた。「『特別な1年』とみんなで一つのベクトルを向いた」。甲子園予選の代替大会で準優勝してみせた先輩は優しく、強かった。
 チームを束ねる立場になった優人を、小中学時代から顔なじみの同学年の部員11人が支えた。「部活ができないと、どこかに集まって“自主練”。本当にポジティブなやつばかりで」と感謝する。ほぼ全員が社会人として歩みだす。仲間と離れ離れになるのは寂しいが、いつの日か「一番、楽しい世代だった」と笑い合える自信がある。

 ■立ち向かう力
 瓊浦高のエイサー和太鼓同好会で部長を務めた倉田來瑠(18)は、長崎くんちの踊町に生まれ育った。幼稚園から銀屋町鯱(しゃち)太鼓保存会の稽古に参加。同校進学も保存会メンバーの勧めだった。
 だが高校で演奏の機会は何度も奪われた。「次のために練習しよう」。部員のモチベーションが下がらないよう声を張った。「一人が崩れたら全員が崩れる。ばかみたいに元気づけた方が楽しくなる」と思った。銀屋町鯱太鼓で出演予定の長崎くんちが延期された後も、一人で泣いた。
 新曲に挑戦したり、自主公演を開いたり。「もしコロナがなかったら」と考えるよりも、新しい活動を探し続けた。後輩部員には、こう伝えたい。「できることを全力で楽しめ!」
 この春、陸上自衛官になる。これまでの経験が困難に立ち向かう力になると信じる來瑠。「人のために働き、今の自分をつくってくれた人々に恩返しがしたい」。力強いまなざしで前を見据える。=敬称略=


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