「もう一度、強くなるために」 長崎陸上女子再起へ 選手ら150人諫早で練習会

県内の女子陸上選手約150人が集まった長崎スターレディースキャンプ=トラスタ

 陸上の女子アスリートを対象にした練習会「長崎スターレディースキャンプ」(長崎陸協主催)が23日、諫早市のトランスコスモススタジアム長崎で開かれた。昨季の陸上勢は四国インターハイの入賞ゼロ。栃木国体は他競技も含めた皇后杯(女子総合)で長崎は最下位に終わった。指導者たちはもう一度盛り返そうと結束。再起に向けて動き始めた現場を取材した。

■総力挙げて強化

 「さあ、ラスト1本。頑張ろう」
 午前練習の締めくくりとなる全員リレー。甲高い声があちこちで響き、競技場内は普段とひと味違う活気に満ちていた。県内各地から集まったこの日の参加者は約150人。指導者もほぼすべて女性で固めた。男子に遠慮する必要がないからだろう。走ったり投げたり、練習の合間に他校の選手と談笑したりする中高生の表情は、いつもに増して生き生きとしている。
 女性による女性のための練習会は、コーチ陣の顔触れも豪華だ。壱岐高時代に100メートルでインターハイを制した田口(旧姓・長島)夏子(千々石中教諭)、鹿屋体大時代に日本選手権400メートルで2連覇した本多(旧姓・大田)愛(長崎南高教諭)ら、全国優勝経験者や県記録ホルダーなど地元の第一人者が勢ぞろい。総力を挙げた強化体制で、ジュニア選手たちに質の高い指導を届けた。
 コーチ陣によると、男子の指導に比べて、女子はより「自分のことをちゃんと見てくれている」と選手が実感できるような接し方が大切になるという。時に元気いっぱいに、時に優しく。内面まで気を配った細やかなアプローチに、選手たちの表情も明るい。昨年の栃木国体少年B100メートル障害予選で全体9番目の記録となり、惜しくも決勝進出を逃した松田晏奈(長崎日大高1年)は「新鮮な気持ちで練習できた。今年は入賞できるように頑張りたい」と意欲を見せた。

励まし合いながら全員リレーに臨む中高生=トランスコスモススタジアム長崎

■大卒選手がカギ

 長崎陸協が「長崎スターレディースキャンプ」を発足させたのは2018年初旬だった。前年の愛媛国体で女子の入賞者が長距離3人にとどまり、短距離、跳躍、投てきはゼロ。優勝2、入賞7の男子から大きく後れを取った。特に成年の選手層が薄く、400メートルリレーは少年Bの選手が2人も走らざるを得ない状況となり、予選タイムは事実上の最下位。これがきっかけになった。
 練習会をゼロから立ち上げ、今も中心となって運営している山本久美子(純心女高教諭)が狙いを説明する。
 「国体で同じ部屋だった成年の選手と“このままじゃダメだよね”という話をして。大学卒業後も競技を続けてくれる選手とか、選手以外でも何か携わりたいと思ってくれる人を増やすような環境が必要だと。そのためには縦のつながりをもっと強くしないといけないという考えにたどり着いた」
 陸上界で大学卒業後も競技を続ける女性アスリートは、ごく限られたトップ選手や駅伝の実業団選手が中心で、それ以外は一握り。心の中では「まだ走りたい」と思っていても、周りに同じ境遇の人がいないため二の足を踏むケースも多いという。女性同士だからこそ共感できる悩みに寄り添い、サポートすることで成年選手を確保したい。さらに成年選手の経験をジュニア選手に還元してもらえば次世代も育つはず。こうした好循環を生むのが理想だ。
 取り組みを始めて5年。コロナ禍で過去2年は開けなかったが、それでも着実な前進を実感している。100メートルで活躍する島田沙絵(チョープロ)のように、教員にならずとも地元実業団で活動する選手が少しずつ出てきた。昨年の栃木国体400メートルリレーで、長崎チームは島田を含む成年選手2人をそろえて予選を着順で通過。準決勝も3着に入り、ファイナリストまであと一歩に迫った。
 別の視点からも効果が見える。2021年に100メートル障害の県記録を樹立し、その後引退した小柳結莉は現在、V・ファーレン長崎の普及インストラクターとして地元でセカンドキャリアを歩み始めた。今回はハードル部門のコーチを快諾。「競技を辞めても、体育の先生ではなくても経験が生きる仕事はあるし、働きながら教えることもできる。陸上との関わり方はいろんな形があることを中高生に知ってもらえたらうれしい」

■協力の輪広がる

スポーツ栄養士からトレーニングと食事の関連について学ぶ参加者=トラスタ雨天練習場

 午前練習の後は、昼食休憩を挟んで栄養学の講習会が行われた。講師を務めたのは、諫早高時代に5000メートルの県高校記録を樹立した坂口裕之(住友電工)の妻で、スポーツ栄養士の坂口真央。自身も諫早高のマネジャーだった経緯があり、今回は「長崎の後輩たちの力になることがあれば協力したい」と自ら持ちかけたという。協力の輪は着実に広がっている。
 坂口は女性特有の体の仕組みを説明した上で、女性アスリートが陥りやすい疲労骨折の予防法や体重管理との向き合い方、試合当日の栄養補給方法などで問題提起。グループ内で意見を出し合う時間を設けて中高生の知識を深めていた。坂口の地元に対する思いが形となり、練習会をより有意義なものに発展させていた。
 午前から夕方まで、約8時間にわたる練習会はここでようやく終了。大いに刺激を受けた様子の中高生たちを見て、山本は「今後もシーズンオフなどを利用して続けていきたい」と手応えをつかんだ様子だった。
 競技力向上の特効薬は少ない。特に長崎のような地方が人口の多い大都市と渡り合うためには、効果的な取り組みを継続すること、現場が熱意を保つこと、そして団結することが最善の強化策ではないだろうか。改めてそう感じさせる練習会だった。実を結ぶ日を待ちたい。


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