火元責任者の務め

 腕利きの人を「仕事師」と称するが、もともとは「火事(ひごと)師」だったという説がある。昔なら火消し、今でいう消防士のことらしい。江戸っ子は「ひ」と「し」を言い分けるのが苦手で、「火事師」がいつしか「仕事師」になり、「やり手」の意味に変わった、と▲社会には「不正」という炎を相手にする火事師たちもいる。煙を察知して、火元を特定する。火事の原因を調べ上げる。東京五輪・パラリンピックの運営を巡る談合事件で、検察は広告大手の電通グループをはじめ6社を起訴した。火元を突き止める捜査は終結する▲大会組織委員会の幹部、企業トップたち15人が関わったとされる汚職事件と合わせ、22人の刑事責任が問われている。不正は燃え広がり、大火になった▲この業務はこの企業に、この事業だったらあそこに-と受注企業の割り振りを一部のやり手、仕事師が仕切ったとみられる。組織委員会はそれを黙認していたらしい▲やり方をよく知る人物にやらせておけばいい。そんな「丸投げ」が事件の背景にあるとしたら、悪だくみの仕事師はいたとしても、出火に目を光らせる火事師は組織委に不在だったことになる▲解散した組織委のトップたちに、火事の原因を調べる、つまり事件を検証する役目はないか。火元責任者の務めに終わりはない。(徹)

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