「長崎県のコロナ対策」医療現場を意識して… 独自策乏しく 医療が逼迫 <検証・大石県政 就任1年③>

会見で「医療が崩壊の危機だ」と訴える森崎会長(中央)。知事に現場を見るように進言したことも明らかにした=昨年8月、長崎市内

 長崎県内の新型コロナウイルス感染者が1日当たり過去最多の4610人に達した昨年8月19日、長崎市の県医師会館には河野茂長崎大学長ら長崎県医療界の重鎮が顔をそろえていた。森崎正幸県医師会長は会見で「県内の医療が崩壊の危機だ」と訴え、現場の逼迫(ひっぱく)状況を見るよう大石賢吾知事に進言したことも明らかにした。
 同2月の知事選は流行第6波の真っただ中。県内全域が国の「まん延防止等重点措置」の対象になり、県は飲食店に酒類の終日提供自粛を要請。ただ全国的には、時間帯によって提供が可能な選択制を採用した自治体が多かった。
 選挙戦で「コロナとたたかう医療専門家」を前面に押し出した大石知事は「地域の状況を把握して最低限の要請をすることが必要」と主張し、当時の中村法道県政との違いを強調。「県独自のコロナ対策を積極的実施」と公約に掲げ、医療現場から期待の声が聞かれた。
 だが知事就任後の同7月、再び感染者が増加すると「以前と何も変わらない」「独自策がなく期待外れだ」などの不満が出始めた。後援会長として支える森崎会長の耳にも入り、お盆過ぎに「政策を決める上で現場を知ることも重要」と進言。知事はその直後、複数の病院に足を運んだ。
 全国一律ではない実践例として、県感染症対策室は同9月からの抗原検査キット配布や休日診療の協力金支給などを挙げる。医療現場の負担を減らすための感染者全数把握の簡略化は、全都道府県中5番目に早く実施。県担当者は大石知事について「メリットとデメリットを理解した上で政策決定している印象。医師の経験が生かされていると思う」と話す。
 それでも同11月ごろから感染が再拡大。ピーク時の今年1月には病床使用率が50%を超え、医療はまた逼迫した。長崎みなとメディカルセンター(長崎市)の門田淳一院長は「現場が窮状を訴えてから、ようやく県が『医療ひっ迫警報』を出した」と県政との温度差に言及。「感染が落ち着いた時期にもっと有効な対策を打てなかったのか」ともどかしそうに話す。
 5月8日には新型コロナの感染症法上の位置付けが5類に引き下げられ、医療現場での混乱が予想される。門田院長は「どの医療機関でもコロナ患者を診られるような取り組みを独自に始めた県もあると聞く。国任せではなく、早く動くべきだ」と訴える。
 同センターを運営する長崎市立病院機構の片峰茂理事長は「(大石知事に)期待したのはフットワークとチャレンジする若さ。行政経験が豊富だった前知事と同じようにはできない。医師を看板に掲げた知事として、月に一度くらい現場に足を運んではどうか」とし、今後に注目する。


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