諦めたら終了

 「あきらめたらそこで試合終了ですよ」-名作バスケ漫画のあまりにも有名な名ゼリフだ。諦めてしまえば逆転の可能性はゼロだが、諦めなければ勝利の可能性は消えない、と安西先生は教える▲あれだけの人気作品だから、関係者の中に愛読者がいる可能性もそれこそゼロではないかもな、と考えながら、この言葉を思い出した。だが、言うまでもなく、スポーツと裁判は話が違う。ここでの“諦めの悪さ”は必ずしも褒められた態度ではない▲諫早湾干拓事業の潮受け堤防を巡る裁判で、国に開門を命じた福岡高裁の確定判決がその後に提起された請求異議訴訟によって上書きされ、無効化されることになった▲勝っても負けても、どんなに不服な結論も最終的には受け入れるというルールが崩れてしまったら裁判は成り立たない。「ごね得」の悪しき前例が国自身の手で作られてしまった。「裁判所の自殺行為」と憤る弁護士の言葉があった▲敗訴判決の履行を渋ることも、別の裁判を起こすことも、一般人には難しい。費用も労力も必要だし、リスクもある。ところが、政府や官僚にはおそらくその痛みが薄い。その意味では二重にアンフェアな事態に思える▲諦めたら終了-の曲解バージョンが政府関係者に定着しないか、と心配している。杞憂(きゆう)だろうか。(智)


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