【大谷翔平】 韓国での「日本人アスリート観」をすっかり変えてしまう 「これほどに愛される選手はいない」

@Getty Images

いよいよ開幕のワールド・ベールボール・クラシック2023(WBC)。3月10日には3大会ぶりに、日韓戦が行われる。

2009年大会では一大会で5度対戦という縁もあった。韓国側が勝利後、太極旗をマウンドにぶっ刺すという行為も物議を醸した。

では今回、韓国で注目されている日本代表選手は誰か。韓国のスポーツ紙の記者として長年同国の野球界を取材してきた業界の大御所で、現在はライターのチェ・ミンギュ氏によると、やはり大谷翔平(エンゼルス)だという。理由は日本でも知られているエピソードが報じられてのこと。「高校時代の目標達成シート」のことだ。

チェ氏によると韓国での大谷の存在は「スポーツメディアにとどまらず、一般紙などでも採り上げられる」超有名人。2012年8月頃に韓国最大手ポータルサイト「NAVER」で「オオタニショウヘイ」の名前が初めて登場した。大手紙「東亜日報」では「日本の160km高速投手」として花巻東高時代の大谷が、韓国の有望株と比べられた。

その後、日本で2015年に日本ハムで最多勝を獲得(15勝)したあたりから、高校時代の「目標達成シート(マンダラチャート)」が注目される。花巻東高校1年生の時、夢をかなえるために計画的な目標を立ててシートに記していたというエピソード。そのシートの中央には「8球団からドラフト1位指名を受ける」と目標が置かれており、そのために必要な具体的なトレーニングや心構え、あるべき人間性や普段の行動なども書かれていた。

「これが韓国でも報じられるや、大反響を呼んだんですよ」。

確かに2018年8月に現地スポーツ紙が「大谷翔平の”夢と目標”現実になる」という見出しの記事を掲載している。

「その計画性や信念に対し、韓国ではその年齢で将来自分がどうなるのかと考えているのかと驚かれたものです。既存の日本人アスリートとは違ったキャラクターが確立されました」(チェ氏)

日本と韓国が国際大会で対戦する時、韓国内では競技や成績を問わず、日本の選手がネガティブな意見の対象になってしまうことは多い。

「バンクーバー五輪フィギュアスケートでキム・ヨナと金メダルを競った浅田真央はどうしてもそういった対象となってしまいました」(チェ氏)

またWBCでは、2006年第1回大会でイチローが開幕前に明かした意気込みの「向こう30年は日本に手は出せないな、という感じで勝ちたいと思う」という発言が曲解され「大会期間中ブーイングを浴び続けただけでなく、日韓戦のたびに取り沙汰される」(同)。こうした日韓の “ライバル”の歴史やドラマは、枚挙にいとまがない。

それが今や、成績だけでなく選手個人の人間性がじっくりと伝わり、時に厳しくライバル視される韓国側から堂々と「愛される」存在が出てくるまでになったのだ。これもまた大谷の存在が新たな時代のアイコンたるゆえんだ。

韓国で最初に「女性ファンがついた日本のスポーツ選手」は、実はサッカーの1997年フランスワールドカップ(W杯)最終予選時のGK川口能活だった。当時は選手の個性やキャラクターではなく、ビジュアルの良さが先行しての人気だったが、そこから26年。いまやウェブ時代の影響もあり大谷の一挙手一投足は韓国でも報じられる。チェ氏は言う。

「大谷の礼儀正しさも韓国では人気の要素の一つです。試合中のさりげないところでさっとゴミを拾う。インタビューにも誠実に応じる。そういった姿です」

長年メディアの立場から韓国スポーツ界を観察してきたチェ氏の目から見て「大谷ほど韓国で愛されている日本人アスリートはいない」という。

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