「旗手が2ゴール スコットランドプレミア」(2月19日「産経新聞」)
そういう記事見出しも多く目にする今日このごろ。スコットランドリーグ(スコティッシュ・プレミアシップフットボールリーグ)には、いま日本人トッププレイヤーの前田大然、古橋亨梧、旗手玲央、岩田智輝らがいる。
なかでもセルティックの古橋、旗手は「W杯不出場の無念」を晴らすような活躍を見せていて、カタールW杯後の日本代表を占うにあたっても「スコットランド」は重要キーワードのひとつだ。
で、その「スコットランド」って何なの? 「知ってるよ。イギリスの一部」という話だけじゃ終わらない、スコットランドの「今さら聞けない話」を。「訛は”ガー音”が入る」「イングランドとの関係は東京と大阪にもちょっと似ている」のだ。
▼英国内での位置づけは「カントリー」
スコットランドとは、イギリス(グレートブリテン島および北アイルランド連合王国)の一部を指す。
つまりその位置づけは「イギリスという独立国家を構成する王国連合のうちのひとつ」。
国連に”State"として加盟しているは「イギリス(グレートブリテン島…連合王国)」だが、その連合を構成する王国を現地では”Country(カントリー)”と呼ぶ。
サッカーファンに繰り返すこともないが、イングランド、スコットランド、ウェールズの各王国(カントリー)と北アイルランド。このうち、グレートブリテン島の北部の地域を「スコットランド」と呼ぶ。
もうひとついうと、イギリスはサッカーの母国ゆえ、国内にある4つのサッカー協会が代表チームを構成、リーグ戦に関してはウェールズがイングランドのプレミアリーグに参加している。
スコットランド成立の歴史は非常に長くなるので、ざっくりと。
紀元前1世紀から2世紀にかけてローマ帝国は領土拡大のためにグレートブリテン島に侵攻。圧倒的な兵力によって南部を制圧したが、原住民のケルト系をルーツとする民族が支配していた北部までは地理的なハードルもあり、統治は叶わなかった。
その後も北部(スコットランド)は西部(ウェールズ)とともに独自の文化を発展させ、ローマ帝国の勢力に対抗した。
そうやって独立を保ってきたスコットランド王国だったが、1707年5月に隣のイングランド王国と政治連合となる。「グレートブリテン王国」として新たなスタートを切った。ざっくりいうとこれが現在のイギリス(グレートブリテン島の3つの王国とアイルランド北部による連合)の原型だ。
▼ファーガソンは「キレると何言ってるか分からない」
では、現地ではスコットランドはどう見られているのか。ここでは「イングランドからの視点」を。
三苫薫の所属チームのホームタウン・ブライトン出身、日本在住歴◆年の英国人サッカージャーナリストのショーン・キャロル氏は言う。
「じつのところ…イングランドの立場からすると『スコットランドを強く意識する』ということはあまりないんですよ。30年以上前にはちょっとあったというんですが…特にロンドンは今、世界中から色んな人種・民族が集まっている。だからイギリス国内の人について『どこの出身だ』ということは特に気にかけない」
その関係性、東京と大阪と似たものか(本稿筆者、大阪と東京で暮らしたからこそ言います)。大阪人は東京を強く意識するが、逆はそうでもないという…
ただし英語の「スコットランド訛り」はちょっと特別なものだという。前出のキャロル・ショーン氏が続ける。
「東京から見ると、東北の方言のイメージにも近いかもしれません。時折、え?と聞き直すシーンもあるでしょう? 関西弁のスピーディーに話す感じともちょっと違います」
音韻や文法に特徴があるほか、イングランドの英語では発音しない母音の後の「r」に巻き舌を入れる傾向がある。Car、Beerといった単語の最後に「ガー」に近い音が入るのだ。
近年のサッカー界でもっとも有名なスコットランド人の一人が、長年マンチェスター・ユナイテッドを率いたアレックス・サー・ファーガソン。
2000年代に彼と仕事をともにしたパク・チソン(韓国)はファーガソンのあだ名が「瞬間湯沸かし器」だったと言い、怒りがすぐに沸点に達したと自叙伝で回顧している。そして「怒り出すとスコットランド訛り丸出しになるから、アジア人の僕には何を言っているか分からなかった」とも。
ただしそういった性格は完全に「人による」というところか。2015年4月にケンブリッジ大学の心理学研究チームが発表したデータによると、イギリスのなかで最も「友好的かつ情緒的に安定している英国人はスコットランドに多い」のだという。
日本で知られているスコットランドモノといえば「スコッチウィスキー」「タータンチェック」お菓子の「ショートブレッド」といったところ。もう一つ、スコットランドが日本でも話題になったのが2014年に行われたイギリスからの独立の是非を問う住民投票。この際には反対票の得票率が55.3%となり、独立とはならなかった。
「その2年後の2016年に初めて行われたイギリスのEU離脱投票(当時は否決)の方が大きな関心事となりました。スコットランド独立については『そう考える人も存在しうるだろうな』というところで…」(前出のショーン・キャロル氏)
歴史的にも他国から侵略された経験を持たないスコットランド。確かにプライドが高く「自分のことは自分で守る」という考え方もあるという。