血痕の色は「黒か?赤か?」最大の争点は「5点の衣類」めぐるみそ漬け実験の評価【袴田事件再審の扉は~57年目の判断~】

再審=裁判のやり直しの可否の判断を3月13日に迎える、いわゆる「袴田事件」。裁判所が判断をする上での最大の争点は、血のついた服を1年以上みそにつけると、血痕は黒くなるのか?赤みが残るのか?です。

<袴田さんの支援者>

「誰が見ても当然という内容でなければならないはずです」

事件発生からまもなく57年。東京高裁による再審の可否判断を3月13日に控え、袴田弁護団は2月27日、最後の会議を開きました。裁判所の判断については「再審開始に間違いない」と自信をのぞかせました。

1966年、静岡県旧清水市のみそ製造会社で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」。逮捕された袴田さんは1980年に死刑が確定。犯行時に袴田さんが着ていたとされる通称「5点の衣類」が事件発生から1年2か月後、裁判が始まったあとにみそタンクの中から見つかるなど不可解なことが多く、長年、えん罪が疑われてきた事件です。

<2014年静岡地裁>

「再審開始です」

2014年、静岡地裁が再審の開始を決定しました。再審には確定判決を疑うに足りる「新規かつ明白な証拠」が求められますが、この時は「5点の衣類」についた「血痕のDNA型鑑定」と、1年2か月もみそに漬かっていたにしては血痕が赤すぎると指摘した弁護団の「みそ漬け実験」を評価。静岡地裁は「5点の衣類は捜査機関に捏造された疑いがある」とまで言及しました。

48年ぶりに袴田さんは釈放されますが、その後も検察の即時抗告で審理は続きます。2018年、東京高裁は静岡地裁の決定を覆し、再審の請求を棄却。DNA型鑑定とみそ漬け実験の証拠価値を否定しました。

舞台は最高裁に。2020年、最高裁は「みそ漬け実験について審理が尽くされていない」と東京高裁に差し戻しました。

今回の審理、最大の争点は、みそ漬け実験の評価。さらに踏み込んで言えば、血のついた服を1年以上みそに漬けても血痕に赤みが残るのか?それとも弁護団が主張するように黒くなるのか?です。

弁護団の依頼を引き受け、実験を行った旭川医科大学の奥田勝博助教です。チューブに入っている血液に、みその成分・酸を加えます。

<旭川医科大学 奥田勝博助教>

「塩酸を薄めたものを入れます。そうすると、黒くなったのが分かると思うんですけど」

血液は酸と混ざった瞬間から黒くなりました。

<旭川医科大学 奥田勝博助教>

「みそのような弱い酸や高い塩分濃度だと、赤みの成分であるヘモグロビンがゆっくりと酸化していく」

また、一般的なみその条件だという、弱酸性かつ塩分濃度10%の環境下での血液の色の変化をみると、時間が経つごとに血液の赤みは消え、どんどん黒くなっていくといいます。

このメカニズムに加え、さらにみそタンクで起きるであろう「メイラード反応」によって、さらに黒くなっていくはずだといいます。奥田助教がいうメイラード反応とは、血液中のたんぱく質とみその中の糖が触れることによって長時間かけて黒くなる化学反応です。

<旭川医科大学 奥田勝博助教>

「(最高裁の)宿題となっていたのは色調の変化、血液が赤みを失い、黒っぽくなることを科学的に説明するということだったので、その説明は十分にできたと思う」

一方、検察側も血液がついた布を1年2カ月みそにつける実験を行いました。その結果、検察は「血痕の一部には顕著な赤みが残り、長時間みそに漬けられても赤みが残る可能性は十分に認められる」と、弁護団の実験とは逆の結果が出たと主張しました。

<袴田事件弁護団 西澤美和子弁護士>

「(検察の実験を)見ていただくと明らかだと思うが、一見して赤みが感じられない程度に色調が変化している」

東京高裁は血痕を「赤い」とみるか、「黒い」とみるか。再審の可否は3月13日に示されます。

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