宿を避難所にする観光地も“南海トラフ臨時情報”出たらどうする? 3年半で発表ゼロ…認知度低い課題も【わたしの防災】

震度7の揺れや巨大な津波が想定されている「南海トラフ巨大地震」。この地震への警戒が高まった時点で、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報」を発表しますが、認知度の低さが課題になっています。導入から3年半、なぜ、広まらないのでしょうか。

<気象庁 大林正典長官>

「対象となる地域の皆様に情報の意味と取るべき防災対応について理解が進むよう、内閣府などの関係機関と連携して普及に努める」

気象庁の大林正典長官が2023年、力を入れると話したのが「南海トラフ地震臨時情報」の周知と啓発です。

南海トラフ巨大地震の想定震源域は、静岡から九州の沖まで広がっています。この領域で、地殻変動を観測するデータに通常とは異なる変化があった場合やマグニチュード6.8以上の地震が起きたら、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報調査中」という情報を出して、専門家による検討会を開くことにしています。そして、調査の結果、さらなる巨大地震に注意・警戒すべき時には、「巨大地震注意」または「巨大地震警戒」とキーワードをつけた「臨時情報」を出します。

しかし、「臨時情報」が出たらどう対応したらよいのか、正しく答えられる静岡県民は少ないのが現状です。静岡県が3月7日に公表した県民意識調査では、臨時情報について、「知っている」と答えた人は24.4%にとどまっています。

<気象庁 大林正典長官>

「緊急地震速報のように、ある程度見聞きするものと比べると(導入から)3年経っても1回も出ていないというような情報なので、やはり地道に普及啓発の取り組みを進めていくしかないなと思っている」

臨時情報の「巨大地震注意」または「警戒」が出たら、日頃からの地震への備えを再確認します。また、「巨大地震警戒」では、津波や土砂災害などから逃げるのに困難な場所に住む人や高齢者などには、1週間程度、安全な場所への「事前避難」を促します。専門家による検討会の会長は、わたしたち、ひとりひとりが自分にどのようなリスクがあるのか、普段から考えることが臨時情報の理解につながると話します。

<南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会 平田直会長>

「ある意味、普段からきちんと地震に対して備えをして、住居の耐震化や家具の固定をして、津波が来た時の避難の場所をきちんと分かって、訓練をしている人は何もすることはない。その時に慌てるのではなく、普段から心がけることを広くみなさんに知っていただくことが臨時情報がうまく機能することかなと思っている」

臨時情報について、行政と市民が協力して対策を考えている街があります。

<岩崎大輔記者>

「全国で唯一、津波災害特別警戒区域=『オレンジゾーン』に指定されている伊豆市土肥地区です。この街では、観光と防災が一体となって災害の事前避難について考えています」

静岡県伊豆市土肥地区は5年前、全国で唯一、建築制限などを伴う『オレンジゾーン』の指定を受けました。国や県の交付金を活用し、海沿いには2024年、観光機能を併せ持った新たな津波避難施設が完成予定です。目指すのは、観光と防災が両立したまちづくり。3年前には、組合に加盟する温泉旅館などが市と協定を結び、災害の事前避難で客室を避難所として提供する取り組みを始めています。

<土肥温泉旅館協同組合 野毛貴登理事長>

Q.広いお部屋ですね?

「ここで大体10人くらい入ろうと思えば入れる部屋」

Q.ここを避難所に使う?

「こちらを避難所に使っていただいて、高さも海抜約20mくらいあるので、十分ここでしたら津波からも避難ができるかと思う。これは完全なプライベートな空間で、お風呂もある、洗面所もある。何もよりもこちらに、旅館の場合は布団があるので、この布団も使うことができる」

高齢者や体が不自由な人など、配慮が必要な人を優先して、1人1泊1000円から3000円(消費税・入湯税は別、食事なし)で避難所として提供します。これまでは、大雨や台風などの風水害が対象でしたが、今後は南海トラフ地震の臨時情報にも対応する方針です。

<土肥温泉旅館協同組合 野毛貴登理事長>

Q.実際に旅館を避難所として使うとお客様は大丈夫なんですか?

「お客様は、そういった状況になるということは、多分ほぼキャンセルをしたりとか、場合によっては旅館自体を完全にクローズすることが恐らく考えられると思うが、こういったことで地元の方、あるいは帰れないお客様にも提供する、旅館ならではのインフラを活用できることになる」

全国でも珍しい旅館を避難所にする取り組み。導入のきっかけは2019年、伊豆を襲った台風災害でした。

<土肥温泉旅館協同組合 野毛貴登理事長>

Q.ここが避難所になっていたんですね?

「体育館で小さなお子様からお年寄りまで、約50人ここにいたと記憶している。ここの辺で子どもたちがボールをついて、ドッジボールみたいな遊びをやっていて、周りを取り囲むようにお年寄りが固い床の上にこうやって寝ていたという、そんな状況だった。台風の時だったので真冬ではなかったが、でもやっぱりこの固い床でお年寄りが避難して寝そべるのは非常に苦労されていたなと思う」

土肥地区は公共施設が少ないことから、市は旅館組合の協力に期待しています。

<伊豆市 危機管理課 沖出浩一主査>

Q.旅館組合がすごい積極的にやっているが

「観光防災のまちづくりの事業においても、住民の先頭に立って旅館組合が今まで引っ張ってきているので、市としても非常に心強い存在。今後、臨時情報にもこちらの制度について、活用いただくということで旅館組合から内諾いただいているので今後はそちらの方を活用させていただければと思う」

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