“5点の衣類”血痕の色「赤み残らない」弁護側の鑑定を評価 捜査機関“ねつ造”の疑いに踏み込む “袴田事件”再審開始決定

東京高裁は3月10日、袴田巖さん(87)の再審=裁判のやり直しを決めました。実に57年前にさかのぼる強盗殺人事件。その最大の争点となってきた疑惑の犯行着衣「5点の衣類」について、裁判所はどう判断したのでしょうか。

1966年、旧清水市(現静岡市清水区)のみそ製造会社で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」。逮捕された袴田さんは1980年に死刑が確定。犯行時に袴田さんが着ていたとされる「5点の衣類」が事件発生から1年2か月後、裁判が始まったあとにみそタンクの中から見つかるなど不可解なことが多く、長年、えん罪が疑われてきた事件です。

その後、袴田さんは裁判のやり直し=再審を何度も求め続け、再審請求を始めて33年後の2014年に静岡地裁が再審開始を決定。

「いま、袴田さんが釈放されました。袴田元被告が釈放されました」

死刑の執行と拘置の停止が決まり、死刑囚という立場のまま釈放されました。

最大の争点となってきた「5点の衣類」。弁護団は、1年2か月もみそにつかりながら、血痕に赤みが残るのは「不自然」として、ねつ造された証拠だと一貫して主張。再審開始を決定した静岡地裁は、弁護団の「みそ漬け実験」を評価した上で「5点の衣類は捜査機関にねつ造された疑いがある」とまで言及しました。

2018年、東京高裁は静岡地裁の決定を覆し、再審の請求を棄却。みそ漬け実験の証拠価値を否定しました。舞台は最高裁に。2020年、最高裁は「みそ漬け実験について審理が尽くされていない」と高裁に差し戻し。

血のついた服を1年以上みそにつけても血痕に赤みが残るのか?それとも黒くなるのか?検察は「赤いまま」、弁護側は「黒くなる」と両者の主張は真っ向から対立していました。13日、東京高裁が下した判断は。

<井手春希キャスター>

「再審開始です、再審開始。東京高裁は裁判のやり直しを認める決定をしました」

東京高裁は弁護側のみそ漬け実験について、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と評価しました。弁護側が今回の審理で提出し、血痕に残された赤みが数日で失われるメカニズムを新たに示した鑑定を評価。また、みそタンクの中では、血液中のたんぱく質とみその中の糖が触れることによって生じる化学反応の「メイラード反応」で、長い時間をかけてさらに黒くなるという弁護側の鑑定結果も認めました。

一方、検察側の「長期間みそにつけられても赤みが残る可能性はある」という主張については否定しました。さらに「5点の衣類」は第三者が事件後にタンクに隠した疑いがあるとまで言及し、「第三者は捜査機関の者である可能性が極めて高いと思われる」と捜査機関による証拠ねつ造の疑いにまで踏み込みました。

袴田さんが再審を求めたのが1981年。42年間も裁判のやり直しをめぐって闘っています。2014年の静岡地裁の決定により、袴田巖さんは「死刑囚」として、浜松の街を歩く前例のない状態で生活しています。袴田さんは長年の拘留と死刑執行への恐怖によって、精神的に不安定な状況が続く、拘禁症状に悩まされています。

<姉・袴田ひで子さん>

「(巖さんは)再審開始をまだ理解していない。本人に帰ってからゆっくり話すつもり。当たり前のことに57年かかった。30年どころではない。大変うれしい、きょうは本当にうれしい」

3月10日に87歳を迎えた袴田さん。東京高裁は、袴田さんは犯人ではない可能性が高いとして、再審の開始を認めました。

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