人気のカツ丼、苦渋の値上げ 横浜の老舗そば屋「角平」 前首相や元横綱もなじみ、カツに妥協許さず

こだわりのカツを揚げる3代目の岩瀨さん

 横浜市西区の老舗そば店「角平」は先月20日、1650円で提供してきたカツ丼を500円値上げして2150円にした。そば店でありながら、他では見られないほど分厚いカツを使った人気メニュー。利益を度外視して提供してきたが、油やパン粉などの高騰の影響を免れなかった。3代目の岩瀨涼介さん(30)は「サービス価格は限界」と苦渋の決断を明かす。

 豚ロース肉を油で揚げて厚さ4~5センチほどになったカツをそば汁で煮る。火が通ったら卵でとじてどんぶりのご飯の上に敷き詰める。1日に100杯以上売れるという重量級のカツ丼は、老若男女の胃袋を満たす。

 創業は1950年。同区平沼の角にあることから「角平」と名乗る。かつては岸信介元首相が通い、地元選挙区(衆院神奈川2区)の菅義偉前首相や、元横綱白鵬の宮城野親方もなじみがある。

 一番の売りはつけ天(そば)だが、カツに妥協を許さないのは初代おかみの故・藤江婦美子さんが以前にカツ屋を営んでいたからだ。「カツはボリュームがないと駄目だ」という婦美子さんのこだわりを、現役の2代目おかみ、藤江壽子さん(80)が長年にわたって受け継いできた。

 「元々サービス品だったので、これで儲(もう)けようとは思っていなかった」(壽子さん)というカツ丼だが、いよいよ限界を迎え値上げに踏み切った。こだわりのカツを揚げるために必要な油の仕入れ価格は、昨年、おととしと比べてほぼ2倍に上がった。卵は倍以上になり、パン粉も1割ほど上がった。

 昨年、他のメニューを値上げした中でもカツ丼の価格は据え置いてきたが、現状維持は困難な状況になった。岩瀨さんは「なるべくサービス価格で提供したいが、悔しい値上げ。断腸の思い」と唇をかむ。

 それでも訪れる客は「カツ丼、カツ丼と言ってくれる」と壽子さん。値上げ後は売り上げ数が落ちることも覚悟したが、大きく減っていない。カツ丼を愛する客の思いに答えるため、「中途半端なものは出せない。100%のものを出したい」と日々調理場に立つ岩瀨さんは意気込む。伝統のメニューは質を落とさず守り抜かれていた。

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