福井―金沢駅間が20分「県境は意味をなさなくなる」 芸術やスポーツで相乗効果、開かれる北陸の可能性

【グラフィックレコード】北陸のポテンシャル
北陸3県が連携する「工芸の祭典」のプロデューサーを務める浦淳さん=2月、石川県金沢市の金沢21世紀美術館

 北陸新幹線の福井県内延伸後、福井駅―金沢駅の所要時間は20分程度になる。金沢駅―富山駅もほぼ同じ。北陸3県の移動が「ちょっとそこまで」になることを見据えた動きは既に始まっている。

 芸術の世界では、イベント「北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI」が2021年から北陸3県に展示会場を分散して開かれている。福井には丹南地域を中心に和紙、漆器、打刃物などの産地が集中し、石川には九谷焼や輪島塗、富山にも高岡銅器、井波彫刻などが息づく。イベントは歴史ある寺社などで工芸や現代アートの作品を展示する試み。プロデューサーを務める認定NPO法人「趣都金澤」の浦淳理事長(57)=石川県金沢市=は「地域の建築と工芸をぶつけ、工芸を大胆に表現していくことがテーマ」と話す。

 北陸新幹線の金沢開業を経て、20年に日本海側で初の国立美術館となる国立工芸館が金沢市に移転。北陸は日本を代表する「工芸の発信地」(浦さん)としての存在感が高まった。東日本大震災や新型コロナウイルスの出現で人々の価値観が変化し、その土地の土、水、草木とともに千年以上の歴史を紡いできた工芸は、サステナブル(持続可能性)の観点で海外からの関心も高いという。

 工芸に追い風が吹く中で迎える敦賀延伸。浦さんは「例えば、どこか1カ所に北陸の工芸を集めてバイヤーを招き、気になる産地に新幹線ですぐ向かってもらうこともできる。県外から来た人にとって県境は、あまり意味をなさなくなるだろう」と見通している。

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 ビジネスでは、福井と富山の経済同友会の交流が始まっている。新幹線を利用してマイクロツーリズム(居住地近隣への観光)を推進するとともに、関東圏などに対しては連携した観光PRで相乗効果を狙う。

 新幹線を使えば、敦賀から富山の移動も1時間以内。宿泊を伴わない旅行や出張も容易になる。昨年11月、福井県内を視察した富山経済同友会の麦野英順代表幹事は「北陸3県が一体となり、観光とビジネスの両方でリピーター客をつくっていくことが大事だ」と言葉に力を込めた。

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 新幹線延伸に合わせて新設されるフルマラソン大会「ふくい桜マラソン」は今年1月、金沢開業した15年から毎年10月に開かれている「金沢マラソン」との協力協定を発表した。「春の福井、秋の金沢」としてタッグを組み、年間を通じて北陸に誘客を図る戦略だ。

 猪嶋宏記福井県文化・スポーツ局長は「県外ランナーからすれば、福井も金沢も『北陸の大会』。既に金沢マラソンに出場するランナーが福井県内で前泊する例がある。互いの県に宿泊する人はさらに増える」。新幹線を東京に行くツールとしてだけでなく、北陸3県の移動時間を“圧縮”するインフラととらえると見え方が変わるという。猪嶋局長は「新幹線は冬でもダイヤが安定していることも強み。北陸の人たちの暮らし方、通勤、通学にいろいろな選択肢を与えてくれるはず」と話している。=第2章おわり=

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