「個人の判断で」

 〈みんなちがって、みんないい〉は金子みすゞ。〈誰の真似もすんな/君は君でいい〉はMr.Children。個性や多様性の輝きをうたう言葉は、いつも私たちの胸に突き刺さる。それとは真逆のベクトルの存在を感じた“マスク緩和”の最初の日▲マスク着用の新ルールは「個人の判断に委ねる」。だったら、対応がピタリとひと通りに揃う方が不自然だ。マスクのない解放感を喜ぶ人がいて、今しばらく感染の状況を見極めたい人もいて▲ところで記事には「様子見のスタート」とあった。「個人で判断する」ための根拠を社会の様子に求めようというのだ。でも、その「社会の様子」は「個々の様子見」が積み重なってできている。不思議な“入れ子構造”に気づく▲どの新聞にも同種の記事があった。だが、人によってまちまちでバラバラな様子のどこがニュースなのか、どこに驚きがあって、何を知らせたいのか、とおしまいには八つ当たりのように考えてしまった▲流行の初期の頃、社会のあちこちで顕在化した「同調圧力」はコロナが刻んだ苦い記憶の一つだ。「皆の様子」の報道は、この不快な圧力を知らないうちに後押ししていないか-そんなことも思った▲初めて金子みすゞの詩が世に出たのは、ちょうど100年前の1923年という。(智)

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