震災から12年

 〈東日本大震災の津波で父親と祖父母を亡くした9歳の野球少年は日本一速い球を投げるピッチャーに成長した。12年後の3月11日、彼は日本代表のユニホームで世界が相手のマウンドに向かう。初球はもちろんストレート、球速表示にスタンドがどよめいて…〉▲これが漫画や小説なら「できすぎだ」と感じてしまうかもしれない。東日本大震災の発生から12年になるきょう、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)1次リーグの第3戦、侍ジャパンの先発は岩手県陸前高田市で震災を経験した佐々木朗希投手▲小学3年の終わりに震災に遭った彼が「侍」投手陣の柱を担う。「12年」が決して短い時間ではないことを実感させる。しかし、震災はまだ過去でも歴史でもない▲「そっちに向かう」と知らせたメールが息子を死なせたのではないか、と自分を責め続ける母の記事が数日前にあった。昨日の紙面では妻と二人、自宅で津波に襲われ、独り生き延びた男性が愛妻の面影をたどっていた▲あの地震の日、津波の日からひと続きの日々を生きる人たちがいる。もう12年なのか、まだ12年なのか、流れる時間の早さは想像することもできない▲忘れない、思い出す、分かったつもりで語らない-そんな思いを新たにしながら、今年も静かに目を閉じる。(智)


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