横浜・金沢区の老舗銭湯、物価高でガス代3倍「アイデアではどうにもならない」

地域の人たちに親しまれている、広くて開放感がある浴場=横浜市金沢区の「亀遊舘」

 「このままだとみんな銭湯やめちゃうよ。やってる間にお金なくなっちゃうから…」

 横浜市金沢区で銭湯「亀遊舘(かん)」を40年近く営む森田守さん(66)は、ガス代や電気代の長引く値上げに頭を抱えている。物価高が銭湯の経営にも大きな影響を与え、いよいよ廃業さえ頭をよぎる。物価高騰は市民生活をじわじわと困窮させている。

 朝8時、ガスのスイッチを押して浴槽のお湯を沸かすことから始まる。排水から熱を回収する機械を丁寧に掃除し、各種設備の点検も欠かせない。午後1時にはシャッターを開け、店番をしながら洗濯と掃除に取りかかる。

 森田さんは「お客さんから『座ってるだけでいいね』と言われるけど、準備とかやってんだよ」と笑う。

 銭湯を始めて40年がたつ。ぬれて重くなったマットを持ち運ぶ作業で、腰と膝を悪くした。一昨年には新型コロナウイルスに感染して重度の肺炎を患った。体調が原因で銭湯の営業日を週6日から4日に減らしたが、ずっと街の人の笑顔を支えてきた。しかし今、度重なる値上げの波に飲み込まれそうになっている。

 ガス代の高騰が著しい。昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻によって値上げが加速した。「2年前に月30万円だったガス代が、今月は百万円を超えた。知恵とかアイデアでは、とてもじゃないけど乗り越えられない」と声を落とす。

 電気代も膨らんでいる。ジャグジーのポンプ、水風呂を冷やすためのチラー、エアコン…。一昨年に月14万円程度だった電気代は約25万円にまではね上がった。このほかにもさまざまな消耗品の値上げが追い打ちをかける。タオルやカミソリ、飲み物も「全体的に1~3割くらいは上がっている」と手の打ちようがない。

 先行きのみえない物価高騰によって経営が苦境に陥っても、入浴料の値上げで経営を安定させることは難しい。銭湯の入浴料の上限は物価統制令に基づき都道府県知事が決定しているからだ。神奈川県の大人の入浴料は昨年9月、490円から500円に値上げされたが、個々の銭湯が独自に料金を引き上げることは許されていない。

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