自己肯定感、肩こり、香り…「心の不調」との関係は?

「心の不調」は明確に表現しにくいため、辛さをまわりと共有しにくく、本人の自覚さえも「辛さ」を正確に捉えているとは限りません。

そこで、慶應義塾大学教授で脳科学者の満倉靖恵 氏の著書『フキハラの正体 なぜ、あの人の不機嫌に振り回されるのか?』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、一部を抜粋・編集して心の不調について解説します。


自己肯定感の低さは「心の痛み」を伴う

自分に対する自信、すなわち自己肯定感は低いより高いほうがいいというのは定説のようですが、実際のところ自己肯定感の低さは「心の不調」にもつながるのでしょうか?

それを調べた結果が、データ27です。

これは、「自己肯定感が高い人」と「自己肯定感が低い人」の、自己紹介をしているときの「ストレス度」を示す脳波の強さを比較したものです。

なお、自己紹介の時間は3分間で、「自己肯定感が高いか、低いか」は事前アンケートによる自己申告です。

驚くのは、「自己肯定感が低い」人の「ストレス度」を示す脳波が50%超とかなり強いことです。自分に自信がないせいで、「失敗したらどうしよう」とか「みんなに笑われたらどうしよう」といった不安を強く感じているのでしょう。あるいは、人前で話すこと自体がそもそもストレスなのかもしれません。いずれにせよ、自分に自信がない人にとっての自己紹介には想像以上の「心の痛み」を伴うのは間違いありません。

自己紹介に限らず、あらゆる場面で同じことが起こっているのだとしたら、「自己肯定感が低い人」はいつも高い「ストレス」、つまり「心の不調」と闘っているということになります。また、自分と同じように「自己肯定感が低い人」と一緒にいると、互いが「フキハラ」の加害者になって、共にストレスを高めあってしまう危険もあります。

一方の「自己肯定感が高い人」から出ているストレス度を示す脳波は20%以下で、「自己肯定感が低い人」の半分以下です。

実は実験前には、両者から出る「ストレス度」を示す脳波はあまり変わらないのではないかと、私は予想していました。

「自己肯定感が高い人」の場合は、周りからの注目を集めやすかったり、自己顕示欲が高めだったりすることが多い傾向があり、それゆえに人知れずプレッシャーを感じているのではないかと思ったからです。

ところが実際に、「自己肯定感が高い人」から出る「ストレス度」を示す脳波は極めて低いレベルでした。

やはり自信の力というのは予想以上に有効で、自信のある人ほどストレスへの耐性が高いということなのでしょう。
「フキハラ」のうけやすさにも大きく影響していそうです。

「体の痛み」は「ストレス度」で把握できる

第三者が把握しにくいのは、「心」だけでなく、「体の痛み」も同じです。

例えば血圧であれば、血圧計を使うことで高いとか低いとかを客観的な数値として見ることができますが、「痛み計」というものは存在しないので、本人からの自己申告に頼ることになります。

そこで、例えば「MAXの痛みが10だとしたら、今の痛みはどれくらいか」といった指標を使ったりするわけですが、このような質問をされても、答えに窮するケースは多いのではないでしょうか?

例えば、「昨日の痛みと比べて今日の痛みはどれくらいか」などと聞かれても、昨日の痛みのレベルの記憶が薄れてしまっている場合もあるでしょう。

でも、脳波を見れば、その人がどれくらい痛みを感じているかを客観的な数値で見ることができます。

痛みが強いほど、強い「ストレス」伴うので、「ストレス度」を示す脳波を測定することで、「その痛みを今、どれくらい辛いと感じているか」がわかるのです。

もちろん、前日のデータと比較すれば、辛さが落ち着いているのか、増しているのかも判断できるでしょう。また、鎮痛剤などの効果を確かめることにも役立ちます。

もちろん、「ストレス」はあくまでも「ストレス」であって痛みそのものが数値化されているわけではありませんが、本人の辛さに応じた対処を考える際には、脳波から「ストレス度」を測定することはとても役に立ちます。

また、周りに気を遣ったり、強がったりして、痛みを我慢している人の「本当のつらさ」を理解するためにも、脳波によって数値化される「ストレス度」は有用だと思います。

肩こりがあるだけで「ストレス度」が3倍になる!?

さて、多くの人が日常的に感じる痛みといえば、肩こりや腰痛が挙げられますが、それらを自覚しているとき、どれくらいの精神的負荷がかかっているのでしょうか。

データ30は、「肩こりを自覚している人」と「肩こりの自覚がない人」に同じ仕事を3時間してもらい、その前後で「ストレス度」を示す脳波がどのように変化したかを比較したものです。

「肩こりの自覚のある人」は、「ストレス度」を示す脳波が70%と、かなり強く出ています。

これは「肩こりの自覚のない人」の20%弱の3倍以上です。

つまり、「肩こりの自覚がある人」は1時間仕事をするだけで、「肩こりの自覚がない人」が3時間以上働いたときに感じるのと同レベルのストレスを感じてしまうというわけです。

気がつかないところで「フキハラ」の要因が発生しているかもしれません。データ31は、同様に「集中力」について調べてみた結果です。

「肩こりの自覚がない人」は、3時間たっても「集中度」を示す脳波の数値が80%とかなりの強さなのに、「肩こりの自覚がある人」は20%程度という弱さです。脳波を見れば、「肩こりの自覚のない人」の4分の1しか集中できていないのは明らかなので、仕事の進度や精度がかなり下がるのは間違いありません。

先ほどもお伝えしたように、肩こりがネガティブな感情や不機嫌を生み、また、「フキハラ」の要因にもなりうる事実も明らかになりました。

肩こりの痛みを抱えながらの作業がこれほどまでの「心の不調」を生む可能性があることに、どれだけの人が気づいているでしょうか?

たかが肩こりだと甘く見て放置していると「心の不調」が顕在化して、より深刻な症状が現われてくる危険もありますので、決して看過するべきではありません。

また、「心の不調」がパフォーマンスに大きく影響することも脳波は物語っているのですから、肩こりに限らず、何らかの「痛み」を自覚しているときは、仕事を中断してでも、まずはその痛みを取り去ることから始めるほうが、結果的には仕事の効率も上がるはずです。

香りはダイレクトに脳に効く

あらがうことのできないホルモンの影響や、他人のネガティブな感情にまで同調するほどネガティブに敏感な脳のせいで、私たちが「イライラする」「不安になる」「集中力が低下する」といった「心の不調」に陥りやすいのは確かなことです。

だからこそ大事なのが、「フキハラ」対策と同様に、効果のあるストレスコントロール法を知っておくことです。

体を動かす、美味しいものを食べる、温泉に入るといった、巷でよく言われるストレス解消法も、人によっては大きな効果があります。

また、自分なりに良さそうだと思うものがあれば、いろいろと試してみて、効果が実感できるものがあれば、心の不調を感じたときの「やることリスト」に入れておくとよいでしょう。

さて、「脳波」の専門家である私と、コスメを開発している企業との共同研究で得た客観的で明確なデータからその効果を確信しているのは、「香り」です。ダイレクトに脳に作用して、ホルモンを変化させる効果が「香り」にはあります。

ここからは、その合同研究で明らかになった「感情を変える香り」についてお話ししていきましょう。

「心の不調」を軽減するのはネクタリンの香り

「感情を変える香り」を解明するため、私たちは、被験者にさまざまな香りを30秒間嗅いでもらい、香りを嗅ぐ前と嗅いでから3分後の感情を比較するという実験を行いました。

「ストレス度」を示す脳波に大きな変化が見られたのがデータ32です。

この結果を出したのは、ネクタリン(もも)の香りでした。

ネクタリンの香りを嗅ぐ前に55%だった「ストレス度」を示す脳波は、3分後には50%まで減っています。これは、ネクタリンの香りがホルモンになんらかの影響を及ぼしている何よりの証拠です。

第3章で紹介した「好きな香り」を嗅いだときの8%減に比べるとやや物足りなく感じるかもしれませんが、ネクタリンの場合は被験者14 人中の11人、つまり、約80%の人に効果が出ています。「好きな香り」のほうは万人に効くわけではありませんから、この汎用性には大きな意味があると言えるでしょう。

同様にストレス度を5%減らす方法としては、15分散歩をする、足湯に20分程度浸かる、絶叫系マシンが好きな人ならジェットコースターに1回乗る、歌うことが好きな人がカラオケで思い切り歌う、などが挙げられます。でも、たった30秒でそれと同じ効果を出すのだとすれば、「ネクタリンの香り」は「心の不調」に悩まされている人の強い味方になるのではないでしょうか。

しかも驚くのは、その効果の持続度です。

人は「ストレス」に敏感なので、、足湯やジェットコースター、カラオケなどで一時的にそこから解放されたとしても、ちょっとしたきっかけで、またストレスを感じてしまう、というのはよく見られる現象です。

ところが、ネクタリンを嗅いだ被験者の「ストレス度」を示す脳波は、短い人でも2時間、長い人の場合はなんと4時間もの間、弱い状態のままキープされていたのです。

もちろん、ストレスの上昇につながるようなインプットが多ければ効果は半減しますが、ネクタリンの香りを嗅いで穏やかに過ごすことができれば、「心の不調」をかなり軽減させることができるでしょう。

「フキハラ」対象にも有効といえます。被害にあっても被害を小さくしたり、あるいは自分が加害者になるのを防ぐのに役立つことでしょう。

フキハラの正体 なぜ、あの人の不機嫌に振り回されるのか?

著者:満倉 靖恵
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【「フキハラ」とは?】
「不機嫌ハラスメント」の略。
不機嫌な態度をとることで、相手に不快な思いをさせたり、過剰に気を遣わせたり、精神的な苦痛をあたえること。本人が意図している/いないに関わらず起こりうる。

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