パトリック・カントレーが密かに行ったギアの微調整について明かす

1Wは2018年発売の「TS3」を使用(Richard Heathcote/Getty Images)

かなり精通したギアマニアでさえ、最近パトリック・カントレーが行った用具に関する試みには気付かなかったものと思われる。彼は2023年に入り、「これだ」という“感覚”と、より高い精度を求め、バッグの中の全番手に対して密かにインパクトのある変更を行っていた。

カントレーも認める通り、通常そこまで熱心にクラブのテスティングを行うタイプではない。2023年初頭にクラブ契約フリーとなったものの、今でも契約をしていた22年に使用していたクラブを使っていることが、それを雄弁に物語っている。それどころか、18年にリリースされたタイトリスト TS3 ドライバーと、14年にリリースのタイトリスト 915F フェアウェイウッドを今だに使用している。とはいえ、現代のゲームにおいてほとんどのゴルファーがそうであるように、カントレーは飛距離とスイングスピードの向上に取り組んでおり、それは彼をシャフトのテスティングという長い道のりへと導いた。

「僕は大の試打好きではないんだ」と、カントレーは「アーノルド・パーマー招待」の記者会見で述べた。「でも、何か良い物があれば、あるいは良くなる可能性があるのであれば、(用具契約フリーであるため)僕はすぐにでもそれ(クラブ)を使える立場にある。それって、ワクワクすることだね。今年は、まだシャフトしか替えていないけど、オフシーズンから今年の初めにかけて、いくつか試したことがあったんだ」

「このところ、僕は少しだけクラブを速く振っているのだけど、それは意図してのことなんだ。より遠くへ飛ばそうということは重要だと思う。それは、少しうまくなるための、最もシンプルにして、最も迅速な方法だから。そのため、僕はクラブ、というかシャフトが少し弱いと感じ始めた。(全てのクラブのシャフトを)重くすることで、よりストレートに打ちやすくなるのではないかと思ったんだ」

スイングスピードを上げることには、シャフトのしなりと捻れが増すことにより、コントロールを失うという危険性がある。その問題を解決する手段として、カントレーはメタルウッドのシャフトを、それまでと同じシリーズで10グラム重いバージョンに変更することを試みた。例を挙げると、それまでドライバーで使用していた60グラムの三菱ケミカル ディアマナZFの代わりに、同モデルで70グラムのバージョンを試した。アイアンのシャフトについては、それまで使用していた120グラムのスチールアイアンシャフト(トゥルーテンパー ダイナミックゴールド 120 ツアーイシュー X100)から、10グラム重いアイアンシャフト(トゥルーテンパー ダイナミックゴールド ツアーイシュー X100)への変更を試みている。

シャフトの硬さは変えず、重量を増すことで、より硬めの感触が得られるよう試みたのである。しかし、彼はこれで思った通りのポジティブな効果が得られないことを突き止めた。

「全てを重くしようと、DG 120からX100へ、そしてウッドのシャフトも同じモデルで10グラム重い物へと変更してみたんだ。でも、僕には重くすることで、同じような感覚を得るのが難しくなってしまったんだ」

2023年の「ザ・ジェネシス招待」では3位に入った(撮影/田辺安啓(JJ))

通常、PGAツアーの選手にとって、ドラスティックな感覚の変化は選択肢にないため、カントレーは振り出しに戻ってイチからやり直さなければならなかった。ただ、試みから学ぶことで、カントレーは異なるルートから、より適切な解決策を見出すこととなった。

「結局、僕は同じシャフトで前の重量に戻し、ウッドのシャフトはティッピングし、アイアンのシャフトはハードステッピングする方法に行き着いたんだ。これは大きな違いをもたらし、ボールの弾道がより真っ直ぐになった。もう大きなドローを打つことに用心し過ぎなくても良いような感じだね。感覚ということに関しては、重くするよりも、断然こっちの方が簡単だった」

では、ここでカントレーの使用したシャフトに関する重要な用語について説明しよう。

1) シャフトの“ハードステッピング”とは、アイアンセット全体のシャフトをわずかに硬くするリシャフトの方法(番手ずらし)である。ハードステッピングするとは、8番アイアンのヘッドに9番アイアンのシャフトを、7番アイアンのヘッドに8番アイアンのシャフトを装着し、それ以降の番手も同じことを繰り返すことを意味し、これによりアイアンの各番手のシャフトが若干硬めになる。

2) ウッドのシャフトの“ティッピング”とは、シャフトの先端(シャフトがクラブのヘッドと接合する側)を短くすること(チップカット)を意味し、これにより効果的にトルクを減らし、全体的に硬くすることができる。

カントレーはアイアンシャフトの配列を見直し、ウッドシャフトの先端を短くすることで、スイングスピードを上げつつ、振り心地の良さとコントロールを取り戻すことができたのである。

どうやら、この変更はすでに功を奏し始めているようである。「セントリートーナメントofチャンピオンズ」で16位、「ザ・アメリカンエキスプレス」で26位に入り、「WMフェニックスオープン」で予選落ちしたが、「ジェネシス招待」で3位、「アーノルド・パーマー招待」では4位に入っている。彼の調子は上向きだ。

新しいロゴが入ったキャディバッグで試合に臨むカントレー(Sam Greenwood/Getty Images)

また、カントレーは「ザ・プレーヤーズ選手権」にて、新たなスポンサーをお披露目した。今年はブランドロゴの全く入っていない、漆黒のスタッフバッグでスタートしたが、現在は黄色い「デウォルト」のロゴの入った黒いスタッフバッグを使用している。ちなみに、デウォルトは電動工具や工具のメーカーである。

シャフト先端のトリミングやシャフトの番手の再編成など、カントレーが最近行った調整の作業を鑑みると、この新スポンサーの選択は筋が通っていると言えるだろう。

(協力/ GolfWRX, PGATOUR.com)

© 株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン