カヤックで大村湾 “散歩” 東彼杵『海が見える駅を海から見るツアー』 いつもの場所が違う世界に

千綿駅を出発するふたつ星と手を振って見送るツアー参加者=大村湾

 観光列車の旅の楽しみに「沿線の人たちの手を振っての歓迎」「ホームでのおもてなし」がある。観光列車を海上のカヤックで迎えようと、長崎県東彼東彼杵町のエコツアーガイド「ハーモナイズ。」は、予約制の「海が見える駅を海から見るツアー」をしている。海の上からのサプライズの歓迎に、JR千綿駅(平似田郷)の観光列車の乗客も手を振り返して心温まるひとときとなっている。
 昨年夏に始めた。月に数回、予約が入り、カヤッカーとホームの乗客が互いに手を振り合っている。
 海から見るツアーの目的地、千綿駅は、レトロな木造駅舎や大村湾を望む弓なりのホームが人気を誇る。乗降客よりも立ち寄り客が多い。昨年9月の西九州新幹線開業に伴い、在来線を走るJR九州の観光列車「ふたつ星4047(よんまるよんなな)」が10分間、停車するようになった。
 海から見るツアーは往復1時間半、約3.5キロの「船旅」。駅から約1キロ南にある里漁港が発着点になる。海上の安全と大漁を願う弁財天のほこらがある入り江からこぎ出す。参加者は「ハーモナイズ。」代表でガイドの新崎聖さん(42)から、カヤックの推進力となるパドルの使い方や操船、非常時の対処法を教わる。乗船してみると目線と海面との距離は近い。水をかく音を聞きながら、滑るような感覚で進む。

大村湾から眺める走行中のふたつ星

 大村線の鉄橋をくぐり港外へ。出航前にも普通列車が通り、タイミングが合えば列車を下から見上げられそうだ。時速は散歩と同じ4キロ程度。途中、カモメやウミウなどが海面から飛び立つ姿を眺めながら、千綿駅を目指した。
 この日は「風向きの影響でスローペース」(新崎さん)。午後4時20分前、汽笛を響かせ真っ白な車体のふたつ星が目の前を駆ける。一行は列車がホームに入る場面には立ち会えなかったものの、懸命にこぎ、停車時間内には間に合った。車窓やホームから大勢の人が海に向かって手を振っていた。
 「本来なら列車の乗客がもてなされる側。でも、海上という非日常の場所で迎えることで、手を振る側も主役になれる」と新崎さん。10分後、発車を告げるハンドベルが海上にも響き、ふたつ星は駅から離れた。乗客もホームの人も、カヤッカーも手を振り合った。
 いつもはホームで迎える駅構内の生花店「ミドリブ」の堤彩子さん(41)は親子で参加した。「ほんの少しこぎ出すだけで、いつもの場所が違う世界に見えた。たくさん手を振ってもらいうれしい」
 新崎さんは長女の小学校進学を機に沖縄から移住した。「琴の海といわれるだけあって波静か。初心者でも操船がしやすい。ツアーを通じて自然環境の大切さにも気付いてもらえたら」と話した。
 問い合わせはインスタグラム(@harmonize.nagasaki)。


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