放送法第4条「政治的公平」とは?高市大臣発言はどこが問題?ジャーナリスト津田大介氏が解説!選挙ドットコムちゃんねるまとめ

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2023年3月21日に公開された動画のテーマは……放送法第四条「政治的公平」問題 何が問題になっているの?

ゲストにジャーナリストの津田大介氏をお迎えし、現在与野党の議論が紛糾している、放送法第4条「政治的公平」の解釈について解説いただきました。

【このトピックのポイント】
・津田氏はこの問題が複雑と指摘しつつ「まず放送法の歴史的な経緯を押さえておくことが大事」
・政治的公平性について述べられている「放送準則」とは?
・そもそも、高市大臣の発言はどこが問題だった?

放送法第4条「政治的公平」問題の発端は?

放送法第4条には政治的に公平であることと定められています。

2015年、高市早苗総務大臣は政府のこれまでの解釈の補充的な説明として、「1つの番組のみでも極端な場合は、政治的に公平であることを確保しているとは認められない」と答弁。

立憲民主党の小西洋之氏はこの件をめぐって、職員から提供を受けた総務省の行政文書を公開。「政治目的で解釈を特定の権力者だけで作ってしまうことが文書で明らかになった」と主張しています。

なぜ、放送法が成立したのか?その経緯は?

津田氏は、この問題が比較的複雑であることを指摘し、「歴史的な経緯を押さえることが大事なんですよね」と解説を始めます。

もともと、放送法が成立したのは1950年のこと。テレビ放送の始まりに合わせ、放送法が生まれました。

放送法ができた当時、国会の電気通信委員会で、なぜこの法律ができたのかということについて当時の官僚が、第二次世界大戦中に放送を国民に対する宣伝の手段に使ったことを繰り返してはならないとした上で、

「放送というものは、やはり強力な宣伝のツールである。ゆえに、やはり表現の自由を確保しなければいけない」

と答弁していることを、津田氏は紹介します。

放送法第1条では、放送の不偏不党、真実及び自律を保証することをうたっており、言い替えると政府などが放送の内容について介入してはいけない、ということを言っている…と津田氏は指摘します。

放送法第4条の「番組準則」の位置づけがポイント

放送法第4条では番組準則というのが定められています。

その中では、「公安及び善良な風俗を害しないこと」「政治的に公平であること」「報道は事実を曲げないこと」「意見が対立してる問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」ということが述べられています。

津田氏は、番組準則の位置づけが確定していないという点が一番のポイントであると指摘します。

津田氏「これ(番組準則)が守るべき義務を伴う法規範なのか、それか番組編集にあたって注意してよっていう精神的な倫理規定なのかっていうのがこの部分が確定してないんですよ」

津田氏は、放送法の研究者の中にも両方の意見があるものの、放送法の研究者の多くはこれは倫理規範で守るべきものではあるけれど、ここから外れても、それによってすぐ罰されるものではない、ということを1960年代〜70年代の国会で議論されてきたことを指摘します。

津田氏「公平であるとかあるいは意見が対立する問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにするとかって、めっちゃくちゃ曖昧じゃないですか」

津田氏は、番組準則の解釈の幅の広さを指摘し、「公平」の解釈にあたっての選挙報道の例を出します。

津田氏「選挙報道の時に、いろんな党の党首の第一声とかを、今だとすごい厳密に、秒単位でみんな均等にするじゃないですか。

でも、そうするといわゆる泡沫政党みたいなところの主張も、大政党と同じ秒数で取り上げられてしまう」

それはほんとうに公平なのか、有権者にとって重要なことなのかと問いかけます。

それほど番組準則があいまいな解釈にあり、だからこそ倫理基準であると考える有識者が多いのだと説明します。

放送局には、番組審議会という外部の目を入れたチェック機関が義務づけられている

番組準則のあいまいさがありながらも、放送局では番組の質を担保する制度があることを、津田氏は指摘します。それが「番組審議会」です。

放送局には番組審議会を置くことが義務づけられています。

MC高橋眞央「義務ということは、もちろん罰則もある。比べたときにやはり明確に罰則が決められているものとそうでないものとなると、4条は倫理のほうなのかなって私も思います」と述べると、津田氏も「そういう風に解釈する法学者が多いんです」と応じました。

放送局への介入についての議論の歴史

国会では、これまでも何度か放送法による放送局への介入について議論されてきました。いずれも、問題となるテレビ番組があったことがきっかけとなったようです。

1970年代には、ひどい場合には停波などもあり得るんじゃないかというほどの議論があった中で、郵政大臣が

問題のシーンがあったとしても、放送番組全編を通じて問題があり、しかもたびたびそれが繰り返されるというような事実がなければ、やはり停波までは難しいのではないか

という趣旨の答弁を行っていたとのこと。また、当時の官僚の答弁にも触れ

津田氏「『ご案内の通り検閲はできないんですと。憲法21条の問題です。なので、番組が放送法違反という理由で行政処分するということは事実上不可能』っていう風に官僚も言ってるんですよ、そこのトップがね。」

MC高橋「いままで何度か答弁でそういう結論がでている」

国会でも議論があったが、70年代までは、行政では番組の内容を巡って処分したりする権限がないということを実はずっとやり取りをしてた、ということを津田氏は明かします。

その上で、総務省の姿勢が変わるきっかけになった事件が1980年代にあったと津田氏は指摘します。それがいわゆる「やらせリンチ事件」です。

1985年、当時の郵政省の放送行政局長のトップが、電波法76条に基づく行政処分を「敢えて行うことはせず厳重注意ということで止め」、処分をしなかったという事実に、津田氏はターニングポイントがあると指摘します。

津田氏「1977年まではそもそも自主的に判断するもので、我々それを止める権限はないですと言ってたのが、1985年には処分はあえてしないで厳重注意って言うのを止めたって言って、結構ガラッと変わってるんですよ」

MC高橋「あえてしないって事はすることもできるって言うニュアンスですからね」

次のターニングポイントは、1993年のいわゆる椿発言問題です。これにより、1994年の国会で当時の郵政省放送行政局長が

(放送の内容に)介入できること、違反の事実の軽重や過去に同様の事態を繰り返しているなど事態発生の原因、放送事業者の対応から見て、再発防止のための措置が十分でなく、違法状態の改善が今後も期待できないかを総合的に判断した上で、条文を適用していく

との発言を行いました。

この段階で、「それまでの(行政が)やれるけどやれない」という判断が、「(行政に)判断する権限がある」と変わったことを津田氏は指摘します。

改めて、今回の高市大臣の発言は何が問題なのか?

行政に判断する権限があるとはいえ、1994年時点での国会の答弁では、1つの番組で問題があっても放送局全体で判断するという解釈があったと津田氏は述べます。

しかし、今回問題となった2015年の高市総務大臣の発言の中では、1つの番組の中で公平を確保せよという話になっています。こうなると、問題を提起することが偏っていると判断されればドキュメンタリーや調査報道が成り立たなくなってしまうことを、津田氏は危惧します。

それまでの解釈は、問題提起などで偏った番組があっても、ほかのニュース番組ではそれに対してはこうですっていうのがあれば放送法4条違反にならない、とされていました。

ところが、2015年に1つの番組でも両論併記しなければならない、それができなければ電波を止める権限があるんだという総務大臣の発言は、今まで国会で話されてた解釈と全然違うという点で問題になりました。

しかし、高市大臣はその指摘に対し「今までと変わらない」と強弁したことこそが一番の問題である、と津田氏は指摘します。

津田氏は、流出した文書には当初は高市氏や総務省も、今までの解釈とあまりにもちがうから大問題になることを懸念し、テレビ局からの反発を予想し消極的な反応をしているということが書かれていたと明らかにします。

津田氏「彼女が立場を変えた時に、どうして彼女が立場を変えざるをえなかったのかを想像することは大事だなって。僕は問題だと思うし辞任すべきだと思うけれど、彼女も政治的な大きな圧力の中で巻き込まれた当事者だっていうところもある。」

どうしてねつ造だと言ったのかについて津田氏は「安倍さんの真似をしたんじゃないですかね。安倍さんが森友の時にそれやって、あのたんかがかっこいいからと思ったのか…あれ言わなければこんな問題になってないですよね。まだわからないんで、どこまで本物なのか精査して確認して対処いたしますくらいにしていれば、こんなことにならなかったはずなんで」

MC高橋「放送法の話が捏造だって言った方に問題がスライドされている印象がありますが」

津田氏「そのとおりで、そんなものはどうでもいい話で、本物に決まってるんだからってこんなもの(笑)」

放送法第4条はどうあるべき?アメリカの状況は?

津田氏は、今回流出した文書の意味づけを、2015年の時のできごとの裏側を説明する資料として8年後にわかったものである、と位置づけました。その上で、なぜ8年後の今になってこれが出てきたのか、背景を考えつつ、本来の放送法4条の対処をどう考えるのかに議論の力点をちゃんと移すべきであると主張します。

MC高橋「そもそも放送がどれくらい政治的公平でなければならないのかというのが私の中で疑問なんですが。新聞とかですと社によってカラーが違いますし、アメリカも番組によって党にカラーが左右されてるような印象があります」

津田氏「いいポイントで、アメリカにも日本の放送法のような法律があって、この放送法4条と同じような公平原則(フェアネスドクトリン)っていうのがあったんですよ。番組は公平でなければいけないっていうのがあったんですけど、それがなくなったんです。」

津田氏は、アメリカでは表現の自由は修正憲法の第1条におかれており、一番大事なものが表現の自由になっています。その結果、放送は公平でなければいけないということ自体が表現の自由を毀損する、ということで裁判になり、フェアネスドクトリンが70年代になくなったという経緯を示します。

しかし、その結果、アメリカでは放送局ごとの偏りが大きくなり、分断を生み出したことを津田氏は憂い、日本では放送法第4条が分断を止める役割を担っているのではないかと示唆します。

津田氏は最後に、表現の自由に対する問題提起をして、番組を締めくくりました。

津田氏「新聞って何書いたっていいじゃないですか。新聞に対して、自分たちに批判的なことを書いたからこの新聞社に行政処分しますって言ったら大問題になりますよね。放送局だったらなんかみんな受け入れてるじゃないですか。ということの意味は考えた方がいいと思うよね」

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