不祥事で株価が下落したサンリオ、後出し決算でストップ高に!2代目社長の敏腕ぶりを紐解く

通常、決算発表のタイミングは、決算期末期45日以内と決められています。たとえば3月31日が締め日なら、2月の半ばまでに決算発表をするのが通例です。

ところが、なんらかの事情で間に合わない場合も稀にあり、そういった場合は、たいていよくない事情であることがほとんどです。


1ヵ月決算発表延期で株価は20%超下落

世界中のセレブが愛する「ハローキティ」を有するサンリオ(8136)が、決算発表間近の2月9日(木)に「特別調査委員会設置のお知らせ」を発表。ライセンス営業本部担当者が、ロイヤリティをあるべき月に売上計上せずプールすることで、任意の月に売上計上を行う期間帰属の操作を行なっていたため、と設置の経緯を表明しています。

キティちゃんが世界中で愛される理由のひとつに、ハイブランドからローカルブランドまで、多くの企業とコラボしていることが挙げられます。サンリオは、キティちゃんを筆頭に多数のキャラクターの知的所有権を有しており、他社がサンリオのキャラクターを利用する際には、同社とライセンス契約を結ぶ必要があります。ライセンス契約で決められた権利使用料がロイヤリティとなり、サンリオの売上の40%弱を占めています。

ちなみに、比較会社としては、オリエンタルランド(4661)がよく挙げられますが、ロイヤリティ収入が多いサンリオは卸売業、ディズニーリゾートでの売上比率が大きいオリエンタルランドはサービス業に分類されています。

さて、このロイヤリティの売上計上を操作していたという不祥事は、当然ながら企業への信頼を悪化させるため、発表翌日から株価は連日下落。4日間で20%以上下げてしまいました。

1ヵ月遅れで発表された驚きの決算内容

この不祥事が発表されるまで、サンリオの株価は非常に堅調でした。2021年3月期は赤字でしたが、2022年3月期から黒字転換、2023年度はすでに2回の上方修正するほどの好業績。それを腰折させたのが第3四半期決算発表前の不祥事です。

さて、1ヵ月遅れの3月16日(木)に発表された2023年3月期第3四半期決算を見てみましょう。

画像:サンリオ「2023年3月期第3四半期決算短信[日本基準](連結)」より引用

①売上高51,625(百万円)、②前年同期比+33.9%、③営業利益10,602(百万円)、④前年同期比+420.7%と営業利益の伸び率がハンパありません。

同時に通期予想が上方修正されたので、そちらも確認します。

画像:サンリオ「2023年3月期通期の連結業績予想の修正及び配当予想の修正に関するお知らせ」より引用

①前回2022年11月4日(金)に発表された営業利益7,000(百万円)から、②12,900(百万円)へ③84.3%もの修正です。ちなみに前々回は、4,700(百万円)から7,000(百万円)と48.9%の修正でしたので、それを大きく上回る修正率は、かなりのサプライズです。さらに5円の増配も同時発表というおまけ付き。

不祥事で投資家がそっぽを向いていたところに、ビックポジティブサプライズで翌日はストップ高。SVBショックで株式市場が荒れる中、我関せずの連続逆行高となりました。

上方修正の理由は、海外及び国内需要が計画の想定を上回り堅調に推移したこと、中期経営計画に沿った構造改革の実行による売上原価率の低減等が挙げられています。

31歳の孫社長が、びっくりするほどやり手だった!

じつはサンリオの業績は、コロナ禍による影響を受ける前から低迷していました。2014年3月期に営業利益210億円の過去最高益をつけてから、2022年3月期で赤字を掘るまで8期連続の減益という失態。

かつては、マライア・キャリー、レディー・ガガ、キャメロン・ディアス、ブリトニー・スピアーズ、パリス・ヒルトンなど、名だたる世界のセレブを魅了したキティちゃんですが、さすがにその人気だけでサンリオの母体を支えるには無理があります。国内では、キャラクターが増えすぎたことによる物販部門の利益率の低下や、テーマパークの相次ぐ閉鎖など、問題を多く抱えていました。

そんな中、2020年6月、創業者である当時92歳の辻信太郎社長から、孫である31歳の辻朋邦氏に後任を任せるとの発表がなされました。正直、孫かわいさに経営を見誤ったかと思いましたが、じつはこの朋邦氏、とんでもなくすごかった!

2021年5月25日(火)に開催されたWeb説明会にて、2024年度を最終年度とする中期経営計画を発表。その際に朋邦氏は、「トップダウン待ちで、部分最適の意識が強い組織。頑張っても報われない、失敗しても責任を問われない人事制度。これらが実行力を欠けさせている大きな要因」と甘えた社内風土を痛烈に批判し、「これまでの非合理な組織運営で低下した士気を高める」「旧態依然のライセンスビジネスにとどまっていた」「悪いものは捨て、第二の創業をやり遂げる」と、毅然と宣言したのです。

中期経営計画の中には、最終年度である2024年度までには営業利益30億円を目標に掲げていましたが、今期2023年度の予想営業利益が106億円ですから、すでに大幅超過しています。

直近の決算説明書には中期経営計画の実行状況・KPI進捗が掲載されており、ひと目見ただけで、順調な進捗具合がわかります。しかも、細かく項目出しされていて、ぼんやり夢見がちな計画を出す企業も多い中、ピリっと緊張感を感じます。

株価はまだまだ過去最高には届かず

株価は、赤字が縮小し始めた2021年5月頃から上昇に転じ、1,600円から、直近では5,390円まで3倍以上にまで駆け上がっています。とはいえ、過去最高値の9,040円には余白があります。

2代目社長の就任から3年足らず、最近の不祥事の例もあるように、まだまだ内部改革は道半ばのようです。ただ、業績改善のスピードは、目を見張るものがあり、今後さらによくなるイメージがビビッドに湧いてきます。

世界中で知られているわりには、時価総額はまだ5,000億円に届いていないというのも、株価上昇の伸び代を感じます。

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

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