サバの日(3月8日)開催『サバフェス vol.1』でサバシスターが魅せたバンドの醍醐味、ライブハウスの未来

サバシスターが結成1周年を目前に控えた2023年3月8日=サバの日、自主企画『サバフェス』の記念すべき第1回を自身のホームグラウンドである下北沢SHELTERで開催した。 この日は初の全国流通盤である1st EP『アテンション!!』の発売日であり、同作のリリース記念ツアー初日にもあたるという祝い事が重なった1日。さらに言えば、『Homecoming Tour』を共同開催するレイラと対談を行なったのもこの日の午後だった(対談の模様はこちら)。

サバシスターによる采配の妙というのか、サバシスターとの共演最多を自称する健やかなる子らがフルスロットルで過熱させたフロアの熱気とテンションを小林私が飄々と、しかし確かな意気込みと共に受け継ぎ、そのままトリのサバシスターへ渡し繋げる流れが見事だった。弛緩したところがなく、三組とももっと観たい、聴きたいと感じるちょうど良い塩梅で楽しめるという、対バン形式の見本のような構成だったと言える。 小手先の技術で勝負するなど端から諦めているとでも言いたげな、己の感情を実直にぶつけてありのままの自分たちを出すしかないと言わんばかりの健やかなる子らは矢継ぎ早に高速チューンを連射。思わず拳を突き上げずにはいられない激情アンサンブルと熱情パフォーマンスでフロアを一体化させる様は圧巻だった。 その疾風怒濤の余韻を軽やかにかわすかのように、あくまでも自然体で自分のペースに持ち込む小林私。「HEALTHY」や「biscuit」などキレのあるカッティングと軽快なリズムがクセになるレパートリーはどれもクールで洗練されたもので、緩急を付けた変幻自在のボーカルは妙に艶めかしい。それとギャップがありすぎる軽妙なトークがまた楽しい。

サバシスターは、ミュージックビデオも制作された新曲「ヘイまま!プリーズコールミー」でスタート。50'sのロックンロールがフレイバーとして散りばめられた新基軸のナンバーで幕を開けたこと、また、まもなく初ライブ(2022年3月15日、下北沢SHELTER)から1年が経つという感慨もあり、バンドが着実に進化してきた証のようなものを感じた。 だが、バンドとして明るく楽しく元気にライブをやるというサバシスターの本質は変わらない。 シンプルで力強いごうけのドラム、思いの丈を自由自在に奏でるるみなすのギター、キュートで透明感があるがライブでは逞しさが3割増となるなちのボーカル。その3人を包み込むようにボトムを支えるDことサトウコウヘイのベース。長身のDを含めた4人の姿がまず絵になるし、ステージに立つことがとにかく楽しくてたまらないというバンドの昂揚が如実に伝わってくるからこちらも自ずと楽しくなる。なんと幸福な以心伝心、なんと楽しい悦楽伝播なのだろう。

メルカリでジャージを横取りされたとかスケボーを盗まれたとか極々私的で些細でたわいもない出来事を普遍的な歌に昇華させるなちのソングライティングは目を見張るものがあるし、奇を衒うとか身の丈以上のところを見せようとか邪な考えが入り込んでいないのが良いのだと思う。表現を欲する初期衝動の無垢なる輝きを保ち続けているというか、無垢は無敵だ。だが万物は流転する。一定のキャリアと経験を積めば無垢で無敵ではいられなくなるし、その意味でも今のサバシスターはロックに定められた残酷な儚さ、あるいは一期一会の美しさを(おそらく無意識のうちに)体現していると言っていいだろう。

3年に及んだコロナ禍も雪溶けの様相を呈しつつあり、ライブハウスでも声出し不可などの条件付きではありながら従前のキャパシティに戻った。この『サバフェス vol.1』は早々にソールドアウトしたため、当然のように場内は満杯。身動きが取れないSHELTERは個人的に久々で、ステージはろくに見えず、フロア前方へ強行突破する人に足を踏まれたり、左右後方から絶えず誰かに突かれたり、暑くても上着を脱げなかったりと不自由なことが多かった。 でもその不自由さこそがライブハウスにいる実感でもあり、同じライブを見ず知らずの人たちと共有していることは確かで、ライブとは同じ瞬間が二度と訪れない体験なのだとつくづく感じた。この感覚、コロナ禍の無観客配信やキャパ制限のライブばかりに慣れてしまっていたので久しく忘れていた。 他の観客との接触、不自由を強いられること、耳をつんざく爆音轟音、アンプから浴びる風圧。こればかりはネットを介した配信では決して味わえないものだし、現場に足を運んだ人にしか享受できないものだ。だからこそ観客同士で、あるいはステージ上の演者と共に共犯関係のようなものが生まれる。

そんなことをふと思ったのは、アンコールの1曲目で“イワシスター”による「スケボー泥棒!」を観たからだ。言うまでもなく、ごうけがボーカル&ギター、るみなすがベース、なちがドラム、Dがギターという変則編成によるプレイだ。あのときの前後左右のどよめき、ざわめき。フロアの温度がグッと上がる瞬間。あれこそがナマのライブの醍醐味だ。 ライブとは見ず知らずの隣の誰かと一緒に作り上げるものだし(安易に群れず、馴れ合いを良しとしないのが個人的な流儀だが)、その一体感がステージへフィードバックする。そうした接触でのみ生じるライブのコミュニケーションは濃厚接触自体を否定されたコロナ禍では成立し得なかった。だが、ライブハウスの逆襲はまさにこれから。コロナ禍のさなかに頭角を現したサバシスターにはその急先鋒としてライブハウスでますます暴れ回ってほしいし、ライブハウスほど楽しい場所が他にないことを世に知らしめてほしい。

この日、健やかなる子らのハヤシネオ(メインボーカル&ギター)が「後年、おまえらも記念すべき『サバフェス』の初回に参加したことを誇りに思う日がきっと来るはず」(大意)と何度か観客に向けて話していたが、今まさに勢いに乗る表現者たちと感度の高い観衆が共に育む空間には確かに何かまた新たな潮流が生まれそうな気配があり、とりわけ怒涛の快進撃を続けるサバシスターの昨今の動向を見ると、この日集まったオーディエンスが歴史的な目撃者であることを自慢できる日もそう遠くないのではないかと感じた。そういえばあの日、るみなすが地元開催の『ARABAKI ROCK FEST.』に初出場することをとても嬉しそうに発表していたなと、近い将来思い返すことがあるのかもしれない。 サバシスターはこれから今以上に人気と実力を兼ね備えていくのだろうし、そうあるべきバンドだし、いつの日か『サバフェス』をホールクラスの会場や野外の広いステージで体感できたら楽しいだろうなとは思う。そうなれば今回の『サバフェス vol.1』を自分も観たと自慢できるのだろうが、できれば毎年3月8日には変わらず下北沢SHELTERでライブハウスの楽しさを伝えるべく『サバフェス』を開催してもらえたら嬉しい。ライブハウスで目の当たりにする先鋭的なパフォーマンス、革新的表現は本来SHELTER規模の空間で生まれるものだと思うし、SHELTERへ通い続けて30年近くになるぼくから見ても、こんなにSHELTERのステージが似合うバンドもそうはいないと感じるからだ。(Text:椎名宗之 / Photo:ニイミココロ)

サバシスター『サバフェス vol.1』セットリスト

1. ヘイまま!プリーズコールミー

2. リバーサイドナイト

3. アイリー

4. スケボー泥棒!

5. しげちゃん

6. ジャージ

7. タイムセール逃してくれ

8. サバシスター's THEME

─アンコール─

1. スケボー泥棒!(イワシスターver.)

2. サバカン

3. ナイスなガール

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