長崎との“縁”が結実した文学館 映画「沈黙」など追い風<遠藤周作生誕100年③>

遠藤周作文学館の思索空間「アンシャンテ」で開かれた第45回文学講座。参加者が熱心に聴講した=長崎市東出津町

 2月18日、長崎市東出津町の市遠藤周作文学館で開かれた第45回文学講座。上智大の福田耕介教授(20世紀フランス文学)が講師を務め、人気が高い遠藤の小説「わたしが・棄てた・女」(1963年)と、遠藤が傾倒した仏のノーベル賞作家フランソア・モーリアックの名作「テレーズ・デスケルウ」との関わりについて語った。
 専門的な内容にもかかわらず、約20人が熱心に聴講。参加した同市の女性(71)は「話を聴いて、『わたしが・棄てた・女』をもう一回読もうと思った。やはりすごい小説」と興奮気味に話した。
 遠藤の代表作「沈黙」の舞台である旧西彼外海町に、2000年5月開館した文学館。遠藤の死後、複数あった候補地から遠藤の妻順子さん(21年、93歳で死去)が建設を決定。遺品や原稿、蔵書など約3万点が寄託・寄贈されている。
 順子さんは開館後も文学館をたびたび訪れ、助言するなどして運営を支援。県内外の研究者や関係者を講師に招き、06年から年数回ペースで開かれている文学講座も「遠藤文学の情報を発信したい」という順子さんの希望を契機の一つとして始まった。
 開館後、貴重な寄託・寄贈資料を活用し、常設展示や企画展を展開。近年は映画「沈黙-サイレンス-」の日本公開(17年)、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界遺産登録(18年)といった追い風もあり、開館以来の入館者数は2月で57万人を超えている。遠藤や順子さんと長崎との「縁」が、形となって今に結実した施設だ。
 文学館を運営する市は今年の生誕100年に合わせた記念事業を展開。文学館で27日開幕する特別企画展「100歳の遠藤周作に出会う」(来年9月26日まで)をはじめ▽文学館の公式ガイドブック発売▽全国の中高生を対象にした遠藤作品の読書感想文コンクール▽記念講演会-などを予定している。
 特別企画展では、代表的な長編「沈黙」「死海のほとり」「侍」「スキャンダル」「深い河」の5作品を中心に、遠藤の生涯と文学を解説。戦時中、米兵捕虜に「実験手術」が施された「九大生体解剖事件」を題材にした、初期の代表作「海と毒薬」(1958年)の生原稿や取材メモなどを初公開する。
 一方で、生前から知られた遠藤の多彩な趣味や社会活動について紹介。企画展では初めて、没後の遠藤を巡る動きも取り上げる。同館の林田沙緒里学芸員(34)は「亡くなった後にも新たな読者に魅力が届き続けていることや、作家としての顔とは別の“遊び”の側面まで知ってもらうことで、遠藤をより身近な存在として捉えてもらえたら」と期待する。


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