遠藤周作生誕100年

 長崎が舞台の小説を数多く残したカトリック作家、故遠藤周作さんは、ちょうど100年前、1923年3月27日に東京・巣鴨で産声を上げた▲「私の血縁には一人も九州出身者はいない」と書いているように、遠藤さんは本来、長崎とは縁もゆかりもない。だがキリシタン弾圧の歴史を学び、幾度も長崎を旅するうちに、人との出会いに恵まれた。長崎は「心の故郷」となった▲遠藤文学に込められた「愛」のメッセージは平和都市長崎と響き合うものがある。代表作「沈黙」の舞台である長崎市の外海地区に遠藤文学館があるのも、いわば必然であろう▲遠藤さんは長崎の歴史風土を見詰め、優しく、日本的な神のイメージを固めていった。哀(かな)しい目で人間の苦しみに寄り添う「同伴者イエス」。どんな人間も拒まずに受け入れる「母なる神」。それは多くの読者の心をつかみ、支えとなった▲「一人の小説家にとって、このような街にめぐりあったことは生涯の幸福である」と遠藤さんは書いている。長崎への愛情は本当に深い▲その思いに応えるように、長崎市は生誕100年記念事業を展開する。きょうは文学館で記念展が始まり、熱心なファンでつくる「周作クラブ長崎」主催のミサも出津(しつ)教会で執り行われる。「相思相愛」の生誕100年である。(潤)

© 株式会社長崎新聞社