票ハラにトゲを

 数年前にこの欄でご紹介したが、詩人の杉本深由起(みゆき)さんが紡いだ「ひかりあつめて」(小学館)という詩集は、学校でいじめに遭う少女の独りぼっちの戦いと、心の成長が39編につづられる▲その中の「薔薇(ばら)」という詩は、嫌なことをされても嫌と言えない苦しさを語り、こう続く。〈やさしく花ひらく 肯定と/反対のトゲを あわせ持つ/薔薇の花を/つくづく美しい と思うのは/そんなとき-〉▲「ノー」という“反対のトゲ”を隠すほかない。それは大人の世界、力関係が働く選挙の現場でも同じだろう。「票ハラ」から議員や候補者を守る動きが広がっていると、先日の紙面にあった▲投票や支援をちらつかせ、握手すればその手をなで、連絡先を教えるよう求め、深夜に酒の席へ呼び出す。有権者による「票ハラスメント」の根絶を目指す条例が今月、大阪府で施行された▲弁護士への相談窓口を開き、議員から議員への嫌がらせも律するという。議員の「なり手不足」が深刻化するいま、政治への志をしぼませないためにも、票ハラにくぎを刺し、トゲを刺すしかない▲統一地方選が近い。志という花を開かせ、世の理不尽には「ノー」のトゲを突きつける。当確や当選の印によく使われるバラは、立候補者の心の内に一輪、置いておきたい花だろう。(徹)

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