国の「被爆体験者」支援事業 4月1日から拡充 負担軽減も「根本解決」遠く

被爆体験者に交付される「精神医療受給者証」(手前、緑色)と「第2種健康診断受診者証」(右、青色)。受給者証は4月以降に順次切り替わり、緑から橙色に変わる=長崎市内

 国指定地域外で長崎原爆に遭った「被爆体験者」に対する国の支援事業が、4月から拡充される。7種のがんをはじめ医療費支給の対象疾病が大幅に増え、県外居住者も新たに支給対象となる。経済的負担の軽減などにつながる一方、体験者が本来求めてきた被爆者認定の見通しは立たず「根本解決」はまだ遠い。
 体験者は、被爆者と認められていない。このため、放射線による健康被害ではなく、被爆体験に伴う「精神疾患」とその「合併症」に限り医療費が支給されている。
 国は、爆心地から半径12キロ圏内で、かつ、被爆者と認められない区域にいた人に無料健診を受けられる「第2種健康診断受診者証」を交付。現在はこのうち、精神疾患のある県内在住者だけが医療費支給の対象となっており、「被爆体験者精神医療受給者証」が交付される仕組み。
 厚生労働省によると、第2種受診者証の所持者は全国で7222人(昨年3月末現在)。うち、精神医療受給者証を持っているのは県内の5097人。
 主な拡充内容は、医療費の支給対象について(1)胃や大腸などのがん7種類を追加(2)精神疾患と合併症の範囲拡大(3)県外居住者を追加-の3点。3年に1回必要だった受給者証の更新手続きも廃止される。
 (1)は、合併症と発がんリスクの関連を研究するための協力費名目で支給。他のがんも今後追加される可能性がある。(2)では従来の「精神疾患12種類、合併症73種類」に限定せず、具体的には心不全、骨粗しょう症、貧血なども対象になる。(3)は、これまで家族との同居や高齢者施設入所などで県外転出した体験者が受給者証返納を求められるケースなどがあったため、継続して医療費を受けられるようにした。
 現在、医療費を支給されている人は受給者証の切り替えが必要。県や長崎市が4月以降、対象者に申請書類を郵送する。一方、第2種受診者証しか持たない県外の1158人(昨年3月末現在)は、精神疾患の診断があれば受給者証が交付される。
 ただ体験者の思いは複雑だ。松尾榮千子さん(82)=長崎市=は40代以降、乳がんや皮膚がんの手術を繰り返した。再発の不安は残るが、皮膚がんは4月以降も医療費支給の対象外。「(放射性降下物で)内部被ばくした影響と思う。がんの種類で区別されるのはおかしい」と訴える。
 国は昨春から、広島原爆の黒い雨被害者を被爆者認定する新基準を運用しているが、長崎で黒い雨などに遭った体験者は対象外のまま。被爆者認定を求める集団訴訟の原告団長、岩永千代子さん(87)は今回の支援拡充を一定評価しつつ、「なぜ新制度をつくってまで差別を続けるのか。(体験者を被爆者と)認めたくない国の姿勢を感じて悲しい」と語り、改めて認定を訴えた。

被爆体験者支援事業の主な拡充内容(4月以降)

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