日本画の最高峰・倉島重友、その作品を自ら解説…片桐仁「とても贅沢な時間」

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。2022年11月11日(金)の放送では、「森の美術館」で本邦屈指の日本画家・倉島重友さんの50年以上に渡る画家人生に迫りました。

◆わずか38人しかいない"同人”のひとり倉島重友

今回の舞台は千葉県・流山市にある森の美術館。ここは緑に囲まれた白い箱のような小さな美術館で、地域の芸術文化活動に貢献することを目的に、2016年開館。風景や人物の絵画を中心に年に数回の企画展を行っています。

片桐は、そんな森の美術館で開催されていた個展「倉島重友展 ~風の刻によせて~」へ。内閣総理大臣賞や文部科学大臣賞、日本美術院賞など数多くの賞を受賞してきた日本画家・倉島さん本人案内のもと館内を巡ります。

2022年で78歳を迎えた倉島さんは、「院展」で知られる明治31年創立の美術団体「日本美術院」のなかでわずか38名しかいない"同人(どうにん)”のひとり(2022年11月時点)。

これまでの画家人生を振り返り、倉島さんは「良い運に恵まれた」と謙遜。今回の個展では、若き日の作品から最近描かれたものまで、倉島さんの50年以上に渡る画業の一端が垣間見え、そこには長年こだわり抜いた技術の結晶がありました。

◆倉島重友作品の真骨頂"洗い出し”とは?

まずは30代~40代の作品から。「静かでやさしい世界観ですね」と片桐が評していたのは「旅立ち」(1979年)。

当時、倉島さんは家族など身近なモチーフを中心に描いており、本作はそのなかの一点。公団住宅の狭いアトリエで飼っていた鳥を外に放すイメージで、飛び去った後の鳥の影が描かれていて、中央の女性のモデルは奥様だそう。

作品を前に、片桐は「素敵ですね。夢の光景みたい」とうっとり。この頃の倉島さんは、予備校や高校の講師をしながら週末や夜に作品を制作する大変な生活を送っていたと回顧。そこで片桐から「そうしたなかでも描き続けた、その秘訣は?」との質問が及ぶと、倉島さんは「やっぱり、もうこれしか道はないので(笑)」と笑顔で返答します。

画中に漂う淡いタッチ、その独特な色彩は"箔”によるもの。箔とは金や銀などを薄く打ち伸ばしたもので、倉島さんはこの作品の少し前から箔を多用するように。絵を描き、その上に極薄い金属の箔を貼り、繊細な仕事で箔を落とし下の絵を浮かび上がらせる技法「洗い出し」を用い始めます。

本作では全面に銀箔が使われ、それを聞いた片桐は「全部!?」と驚きつつも「この幻想的な感じは箔のおかげですかね」と疑問を投げかけます。これに倉島さんは「それはあると思います」と頷き、「だからやめられなくなっちゃうんですね。これからずっと」と箔に魅了されたことを明かします。

続いて鑑賞した作品は、片桐が「物語を感じさせるというか、女性の目線の先に何があるんだろうって想像させる作品ですね」と語っていた「野の花」(1992年)。

これは倉島さん48歳頃の作品で、この頃になると講師の仕事などは抑え、作品制作に集中

片桐が「この肌もなんとも言えない透明感が」とまじまじと見つめていた本作でも洗い出しが行われ、使われたのは水金箔。水金箔とは銀箔と金箔を混ぜたもので、水のような青みが感じられるのが特徴で、片桐は「淡いタッチなんだけど、見れば見るほど、この瞬間の匂い立つような感じが」と感心しきり。

こうした淡いタッチは人物画だけでなく風景画にも活かされ、それが顕著なのが「紹興雨余」(1993年)。描かれているのは中国の紹興という場所で「30代後半から何回か写生旅行に行って。なんか中国のこういう古い民家の生活感が好きで」と倉島さん。

人物画が中心だったところから、少し変化をつけようと風景を描き出したものの、洗い出しは健在で、本作でも水金箔を使用。片桐は「素敵ですね。虹が出て、雨上がりのしっとりした感じで。全体的に明るくない色じゃないのに、この静かな感じ……先生の優しい感じが漂ってきますね」と見入ります。

◆洗い出しを極め、50代で日本画の最高峰に…

自らの個性を洗い出しに見出し、それを極めた倉島さんはその後、大きな賞を受賞することに。それが「川風」(2001年)です。これは北インド・カシミールに行った際に描かれたもので、画中にあるように現地では女性が水瓶を頭に乗せて川まで水を汲みに来ていたそう。

当時の倉島さんは確たる結果を得ることができず、再度人物画に戻るか迷っていたそうですが、そうしたときに中国やインドの服装が描きやすく、風に吹かれてなびく様が好きなことに気づいたと言います。その瞬間を本作で描いたところ、58歳で日本美術院賞(大観賞)を受賞し「本当に運良くもらえて。私もビックリした(笑)。自分にとっては最高のものでした」と倉島さん。そして翌年、59歳で同人に選ばれ、日本画における最高峰のひとりに。

続いては、63歳頃に描かれた屏風絵「東風釣人」(2008年)。これは倉島さんの自宅近くにある牛久沼のほとりに、明治から昭和にかけて活躍した河童の絵を多く描いたことでも知られる日本画家・小川芋銭が過去に住んでいたそうで、釣り人を見ていたときに芋銭が頭を掠め、作品へと昇華したそう。

この作品でも水金箔が使われており、片桐は「この水のゆらめきに風を感じますね、やさしい感じの。静かななかに明るい未来を予兆させてくれるというか、先生のフィルターで見た世界というか、それを僕らも追体験している感じがありますね」と感慨深そうに語ります。

◆70代になっても情熱は衰えずも逆に緊張度が…

人物、風景画ときて、次は花。70歳になって描かれた「合歓」(2015年)は、アトリエからかつて見えたねむの木に鳥が戯れる様子を描いたもの。

倉島さん自身は70代になっても絵を描くことに対しては何も変わらず、むしろ緊張度が増していると言い「やっぱり同人を維持していくプレッシャーはすごい。まあ、なんとか描き続けていきたいという気持ちだけはどこかに持ってはいるんですけど」と素直な心境を明かす場面も。

さらに、花の中を歩く女性と犬が描かれた「秋桜の丘」(2021年)でも水金箔が使われており、舞台となっているのはコスモスが咲き乱れる長野県・佐久高原の内山牧場。

倉島さんは2度写生に行き、全体感を捉えて描いたそうで「自分はそういう風景のなかに犬を連れているのをよく描くんです」と倉島さん。そして、そこに描かれた犬は、30~40代の頃に飼っていた愛犬・リリーだそう。

本作が描かれたのは76歳のとき。片桐は「やっぱり画家の方々はお若いですよね、エネルギーを見ていると」と脱帽。倉島さんは「やっぱり、現場を見て感じるということですかね。風景の空気をなんらかのイメージで助長できたらいいなと思って」と作品への向き合い方を話していました。

今回、倉島さん自らに解説してもらった片桐は、「日本画の魅力を教えていただいたというか、洗い出しという技法を使ってあの空気感を演出する話は面白かったですね。そして、なんといっても先生の人柄と絵がここまでマッチするんだっていう。やさしさ+熱い思いみたいなものを絵から感じるんですよね。とても贅沢な時間でした」と感無量の様子。

そして、「いくつになっても情熱を失わない画家の魂、素晴らしい!」と称賛し、日本画とともに歩んできた画家が生み出した愛に溢れる作品の数々に拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、「山茶花の小径」

「倉島重友展」の展示作品のなかで、ストーリーに入らなかったもののなかから倉島さんがぜひ見てほしい作品を紹介する「今日のアンコール」。今回は「山茶花の小径」(2019年)です。

本作は、本人にとってとても思い入れが深いそうで、なぜならモチーフとなっている場所は11月から12月にかけて山茶花が満開になる自宅から牛久沼までの道で、そこは愛犬リリーとの散歩道だから。本作に描かれているのは子犬時代のリリーで、倉島さんは「山茶花の花そのものと、落ちた花の塊がとても綺麗で、これを描いてみたいと思って。それで、そこに孫と小さいときのリリーを入れて」と作品の成り立ちを語っていました。

最後はミュージアムショップへ。片桐はその心地よい空間を体で感じつつ、グッズを物色。定番のクリアファイルには、山茶花やリリーが描かれたものなどがラインナップ。

そして、ポストカードには森の美術館のかわいらしい外観がデザインされたものもあり「素敵ですよね~」とカードを愛でるなか、1本の大きな木に目が留まる片桐。それは森の美術館の駐車場にある柿の木だそうで、さらには「こんなになるんですか!?」と驚いていたのは筍。

それは同館の近くで採れたもので、春には来館者にプレゼントすることもあるとか。それを聞いた片桐は「春先に来たら筍がもらえるんですか!?」と衝撃を受けていました。

※開館状況は、森の美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週金曜 21:25~21:54、毎週日曜 12:00~12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

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